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第4話 異世界初日の終わり

「ひとまず飯にしよう。何があるんだろうな」


 先程アイテムボックスで銀貨6枚使用した為に残りの所持金は銅貨5枚に銀貨12枚。贅沢は出来ないので出来るだけ安いものを選ばなくてはならない。メニューを中央に置いて開くと確認する。


(高いもので銀貨2枚。宿屋と同じ値段って考えりゃ相当高いか。銅貨70枚くらいならまぁ……問題ないか)


 複雑な図形のようなこの世界の文字。しかし女神の恩恵が蓮にもその文字はきちんと読めている。しかし読めているイコール何が来るのか分かるというわけではない。グローイーグルの肉やマッシュグローブのスープなど魔物の名前のような食べ物の名前を書かれているせいで何か不明なのだ。


「これでいいか……。狐月は何にする?」

「わ、私も選んで良いのですか!?」

「当たり前だろ?」


 奴隷としては残飯程度。最悪食べれなくてゴミを漁って、などがあるのだが蓮はそんなことはさせない。例え金に余裕がなくても仮に食べないのであれば蓮自身も食べないという選択しかあり得ないのだ。


「で、ではこちらのスープを……」

「それだけじゃ足りないだろ? これちょっと高いけど2人で分けようか」

「そ、そんな! ご主人様が1人で召し上がるべきです! 私のことなど……」


 自分を卑下しようとした狐月。蓮は軽く狐月の頭をチョップする。全く痛くない力加減であるが狐月は目をパチクリとして固まってしまう。


「2人で食った方が美味いだろ? 奴隷だからって衣食住奪うわけないって」


 チョップした手で優しく頭を撫でると狐月は目尻に涙を溜めて俯いた。


「はい……ありがとうございます……」


 鼻声になりながら礼を言う狐月に蓮はクスリと笑う。奴隷としての立場はわきまえてもらう。しかしだからといって生活を奪うわけにはいかない。それなりの自由は必要だろうし生きる為に協力もしてもらわなければならない。


「さて、注文を。って……どうすりゃいいんだ?」

「は、はい注文ですね。お任せください」


 狐月は目尻に溜まった涙を拭い、少し機嫌良さそうに笑みを浮かべながら手を挙げる。店員が走ってやってきてニッコリと微笑む。


「はい、ご注文は?」

「これとこれとこれを……お願い致します」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 注文を聞いてカウンターの奥へと消えていった店員。蓮は身体を大きく伸ばすと疲れたように溜息を吐いた。


「死んだと思ったらいきなり異世界転生なんだもんな……。もう無理……」

「え、えっと……」


 テーブルに突っ伏してしまう蓮。狐月はなんと声を掛けて良いのか分からず、つい手が出てしまった。蓮の頭を優しく撫でてしまう。


「……狐月さん?」

「はっ、す、すみません!」

「いや…………気持ち良いから続行で頼む」

「は、はい」


 狐月に頭を撫でられて蓮は気持ち良さそうに目を閉じる。寝てしまいたいくらいの気持ち良さだ。


(好みどストライクの人に頭撫でてもらえるのってなんか良いな……)


 金髪巨乳の優しいお姉さん。蓮の好みどストライクの女性が優しくしてくれるだけでも満足してしまうものだ。加えてケモミミと尻尾付きでまさしく完璧である。


(この人に童貞奪ってもらうわけか。いやでも待てよ……? 流石に初日からするのはマズ…イよな?)


 まだまだ信頼を勝ち得ていないというのにいきなり身体を許してもらうわけにはいかない。それにこれは蓮のプライドのようなものだが初めては好き同士でしたいというものがある。時期にハーレム作りたいと思ってしまっているもののやはり初めては蓮にとっても特別だ。


(落ち着け……この気持ち良さに負けるのはもっと後だ。この人に好きになってもらう為にも俺の方も色々と我慢しなければならない)


 蓮は頭の中でごちゃごちゃと色々と考えて再び溜息を吐いてしまう。


「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、平気……。狐月は優しいな」


 未だに優しく頭を撫でてくれる狐月。こんな優しい人を前に無理やり奪うなど蓮の心が許さなかった。


「あのー……」

「っ!」


 店員がお盆を持ってやってきた。狐月は慌てて手を引っ込め、蓮も慌てて上体を起こした。


「お邪魔してしまいすみません。ごゆっくり……」


 引きつった笑顔で料理をテーブルに置いていった店員。狐月は恥ずかしそうに頬を赤らめ、蓮は気まずそうに頬をかいた。


「た、食べようか……」

「は、はい……」


 2人で食事に手を付ける。クロウキャロットの炒め物にサンドフィッシュのスープ、グローイーグルの肉と少し高価ながら大変美味だ。


「あ、あの、ご主人様。私はもう……」

「全然食ってないんだけど……。はぁ……命令だ、ちゃんと食え」

「は、はい」


 命じなければちゃんと食べないのは色々と問題だったが1度で済むだろうと考えていた。苦しみを味わいたくない狐月は遠慮しながらもきちんと食べ切った。


「ありがとうございました。お会計銀貨2枚、銅貨20枚です」


 袋を渡される。蓮は戸惑ってしまい助けを求めるように狐月を見る。


「お借りします」


 察した狐月は店員から渡された袋と蓮の全財産であるアイテムボックスを借りる。袋の口同士をくっつけるとすぐに袋を返した。


「……はい、確かにいただきました。またのお越しをお待ちしております」


 店員に見送られて店を出る。腹も膨れたところで本格的に眠くなってくる。


「悪い。一瞬で受け渡しが出来るんだな」

「店員様からいただけるあの袋はあらかじめ金額が設定されているんです。こちらのお金のアイテムボックスに口を合わせると自動で徴収していただけるんです」

「なるほどな……」


 そういう常識をまるで知らない蓮にはあれが何かの儀式なのではと思ってしまっていた。支払いが済んだ時点で色々と察したが。


「ふぅ……とりあえず早く帰って寝よう」

「はい」


 2人並んで歩き始める。しかし1つ大切な問題を全く解決していなかった。


「寝床どうするかだな」

「ベッドがありますので問題ありません」

「もう慣れたから何も聞かずに言っておくけど狐月もベッドで寝るんだからな?」

「え?」


 キョトンとする狐月も予想通り。蓮はわざとらしく大きめに溜息を吐いた。


「女性を床で寝かせるわけにはいかないだろ?」

「そんな……! ど、奴隷である私にベッドなど身に余ります!」

「言ったろ? 衣食住を奪うわけじゃないって。ベッドの有無は住に関わることだからな?」


 最低限の生活を強いられているもののそこは蓮も譲れない。女性を床で寝かせて自分だけのうのうとベッドで眠ることなど出来ないのだ。


「俺は……椅子でいいか」

「いけません! ご主人様がベッドを使用されるべきです!」

「いいや、これは譲れん。命令だ」


 うっ、と苦しそうな表情を浮かべる。命令として出されてしまえば狐月は断ることが出来なくなってしまう。しかし予想外にも狐月はそれに抗ってみせた。否定ではなく代案を出すという形で。


「で、では一緒に寝ませんか? それでしたら2人で眠れます……」

「いや、それ、あの……」


 自分でも何を言っているのか分かっている。狐月は顔を真っ赤にしており、蓮も瞬時に頬に熱を帯び始める。


「その……ど、奴隷ですので覚悟は出来ています」

「女性の方が積極的なんだけど!?」


 経験がない蓮は残念ながら尻込みしてしまっていた。そして同じく経験がない狐月だが奴隷として過ごす以上はそういうことになるのを理解していた。


「ご主人様でしたら……私は大丈夫ですから……」


 潤んだ目で言われても説得力はなかった。しかし据え膳食わぬは男の恥だ。蓮は耳まで真っ赤にしながらも恥ずかしそうに頷いた。


「は、初めてなんで優しくしてください……」

「す、すみません。私も初めてです……」


 甘ったるい空気になってしまった。2人は互いに照れて顔を見れないながらも無言で歩き出す。足取りは酷く重かった。


(ど、どど、どうするべきだ!? こういう時になんて言うのが正解なんだ!? 俺に任せろ的なこと!?)

(ひょ、ひょわ〜! さ、誘ってしまいました! わ、私の方から誘ってしまいました!?)


 内心でお互いに慌てまくっている。お互いにちらりと相手の顔を窺うと目が合ってしまってすぐに逸らした。


(って少女漫画か!)


 1人で内心ツッコミを入れているとなんとか落ち着いてくる。深呼吸をして更に落ち着かせるとコホンと咳払い。


「あ、避妊」


 女神の言葉を思い出した蓮はこの辺りにゴムは売っているのだろうかと悩んでしまう。慌てて周囲を見回した蓮の服の裾を狐月が引っ張った。


「だ、大丈夫ですから……」

「へ? いやいや、さ、流石にな……」


 避妊せずに、という選択肢はない。残念ながら今妊娠されてしまうと蓮としても責任が取れるか怪しいところなのだ。きちんとそういう立場にならない限りは絶対にしないと決めている。


「そ、外に出していただければ……」

「それでも妊娠の可能性あるから駄目だぞ?」

「そ、そうなのですか!?」


 外に出せばいいというのは迷信である。実際に外に出したところで妊娠する可能性が無くなるわけではなく、ゴムを付けないという選択肢はまずあり得なかった。


「だからやっぱり買ってからだ。流石にその…今更無しっていうのは寂しいし」

「は、はい……お願い致します……」


 することは既に決定してしまった。今更引き下がれるかという意地もあるが何よりも狐月の決意を無駄にはしたくなかった。

 ゴムはこの世界ではかなり重要視される。結婚という概念があるにはあるが奴隷という制度がある以上そちらに関係を持つことも少なくはないのだ。

 近くのそういう店でゴムを買いながら蓮は色々と状況を整理しようと必死だった。しかしこのど緊張するとイベントを前に蓮が思ったのはなんとも呑気なものだった。


(あっ、そういやこの世界にもあるんだな)


 日本のそれと全く一緒のようだったので蓮としてはありがたい限りだった。ただゴムを買う際にはそれはもう恥ずかしく、狐月も顔を真っ赤にしていた。


「か、帰るか……」

「は、はい……」


 用事も全て終わってしまった。2人は真っ直ぐに宿へと戻る。宿に入るなり2人の心臓はそれはもう凄いくらいに高鳴ってしまう。


(うー……落ち着け落ち着け……。お互いに初めてなんだ、男の俺がしっかりしないと)


 男として、そして主人として自分がリードしなければとなんとか落ち着かせようとする。しかしやはりまだまだ高校生だ、全く落ち着かない。


「あ、あの……まずはご入浴致しますか?」

「え!? あ、あぁ、ふ、風呂か」


 当たり前のことを言われたはずなのに物凄く驚いてしまう。致す前に身体を清めるのは当然のことだろう。


「この世界って電気で動いてるのか?」

「電気……ですか? 雷魔法も確かにありますが……」


 どうやら電気は馴染みがないようだ。2人で風呂場に行くと何やらリストバンドのようなものが繋がっていた。


「それはなんなんだ?」

「こちらから魔力を供給出来るんです。少々お待ちください」


 狐月はリストバンドを装着する。すると壁に埋め込まれたメーターがどんどんと溜まっていく。


「へー……」

「魔力が貯まりました。ではお湯を出します」


 蛇口を捻るとお湯が出てきて湯船に溜まる。地球の電気で沸かすそれよりも明らかに早くて便利である。


「魔力って相当消費するのか?」

「いえ、そこまでの量ではありません」


 多量の魔力を消費するのならば戦闘の後などは辛いものがあるがそういうわけでもないそうだ。


「やっぱり俺の世界とは全然違うな」

「そうなのですか?」

「あぁ。俺のとこは魔力なんて知らないからな」


 自分にそもそも魔力なるものがあるのかすら不明だ。もしなければこれから色々と不便なことになりそうだと遠い目をしてしまう。


「まぁいいや。とりあえず入っちまおうか」

「は、はい」


 頬を真っ赤に染める狐月。蓮がキョトンとしてしまう中、かなり恥ずかしそうに消え入りそうな声で呟いた。


「あの……お背中を……」

「…………」


 蓮も顔を真っ赤にした。予想外にも身体を清める前にそういう展開になってしまうとは思ってもみなかったのだ。高速で頭がフル回転して色々な妄想が出てしまう。


(お、おおお落ち着け。そう、背中流してもらうだけ! 背中を流してもらえるだけだ!)


 思春期にはとてつもない破壊力の台詞だったがなんとか落ち着こうと努力する。せっかく風呂の入れ方で落ち着いていたというのに一気にぶり返った。


「そ、その……服を……お脱ぎください」

「ちょ、は、早くね?」

「そ、そうですか?」


 制服のボタンに手を掛けられてしまう。丁寧にボタンを1つ1つ外されてしまい黒いTシャツが露わになる。これを脱いでしまうと完全に裸となってしまうのだが狐月は顔を真っ赤にしながらも止まらない。


「ふ、風呂くらい1人で入れるから!」

「……ですがご主人様はシャンプーの出し方などもお分かりになりますか?」

「…………」


 ちらりとシャンプーと思わしきものを見るが地球のものとは明らかに違う。壁に埋め込まれているようで今度はリストバンドもないことから使い方は全く分からない。


「脱がします……」

「は、はい……」


 何も言い返せなくなってしまい為すがままに服を脱がされてしまう。下すらも脱がされてしまい、咄嗟に局部は隠してしまう。


(やばいやばいやばいやばい。見られてる見られてる見られてる見られてる!)


 口元を震わせて色々と余裕がない蓮。隠すものも何もなく、本当に色々とマズイ状況だ。


「私も……し、失礼致します……」


 しゅるりと装束を脱いだ狐月はすぐに生まれたままの姿へとなってしまう。真っ白い肌に綺麗な身体付きには目を奪われてしまう。


「お洋服は外に置いておきます……」


 着替えを買う余裕はない。残念ながら同じ服を着るしかないので濡らすわけにはいかなかった。

 服を外へと出した狐月はすぐに蓮の背中に抱き着く。大きな柔らかな感触に蓮は耳まで真っ赤にしてしまう。


「ご主人様……これは……」

「い、いや! 童貞には刺激が強過ぎてな!?」


 明らかに大きくなったそれに狐月も耳まで真っ赤だ。しかし大胆にも後ろから手を回して触れてしまう。


「んっ……ちょ、狐月……!」

「大丈夫ですから……私に任せてください……」


 それからは流されるように初めてを体験してしまった蓮。自分がリードしたかったのだが狐月が積極的にしてくれたお陰かそういう機会もなく、ただただお姉さんに優しく奪ってもらうという素敵な経験となった。

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