留まる死人は現に何を想う
人でもない、神でもない、妖でもない
そんな不思議な存在が、この世に存在していた
それは、ある死人を象った存在だった
何をするでもなく
ただふらふらと現れては、またふらふらと消えていく
最初こそ不思議に思ったり、不気味に思う者も居たようだが、今や気にする者すら居なかった
可笑しいと感じるかもしれない
そんな存在を無視する筈がないと思うかもしれない
だがこれは
その死人があの人だからこそ、生まれた現状と言えるだろう
「今日も平和だなぁ」
生前此処に住み、住民全ての人に好かれていた者が溢す言葉は平和
「あはは、相変わらずですね、死んでるのが信じられませんよ」
そして生きている者達の、死人に対する態度もまた平和
「ははっ、本当に、生きていたのなら良かったんだけどね」
ただ一つ、穏やかに笑う死人の心は、平和か否か
それだけは誰が見てもわからない
死人は現に何を想い、留まり続けるのか
それもまた、誰にもわかることはないのだ