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リスの良々

白弥は気を取り直して、リスの家に向かいました。


リスの良々(らら)は小さい頃、月のわぐまのじいさんに育てられたことがありました。


今は離れて暮していますが、月のわぐまのじいさんを本当の家族のように慕っていることを誰もが知っていたのです。


白弥は、良々がそんな月のわぐまのじいさんに『おめでとう』の手紙を書いていると思ったのです。


やがて、光ノ山で一番大きな「(せん)ノ森」に着きました。


真っ直ぐに伸びる大木が立派な森です。


千ノ森は一足先に秋の訪れを感じさせ、ひんやりと冷たい風が頬をなでました。辺りはとても静かです。


白弥は繁った木々の中から、


  光ノ山胡桃(くるみ)ノ木ノ小枝十三番地・リスの良々


と書かれた表札を高い木の枝に見つけて、やっと思いで登りました。


白弥はあまり、木登りが得意ではないのです。


「高ぁ〜い…」


落ちないように幹にしっかり捕まって、良々の姿を探しましたがどこにも見当たりません。


「困ったなぁ。食べ物を探しに行っちゃったのかな…」


身軽な良々とは違い、白弥は自由に動くことが出来ません。


白弥は近くに良々がいると思い、大声で呼びました。


「良々〜! 良〜々〜〜!」


声は澄んだ森の空気を震わせて響きました。そしてまた、静けさを取り戻しました。


「おかしいなぁ…」


雨上がりの爽快な空気をたくさん吸い込んで、


「良々〜〜〜〜!」


白弥はもう一度叫びました。


「………白弥ぃ!」


遙かに高い場所から、返事が返ってきました。良々は白弥に叫びます。


「ちょっと静かにしてて〜!」


白弥は思わず口に手を当て、小首を傾げました。


良々は誰かと話しているようでした。


しかし、白弥の位置からはその相手が誰なのか解りません。


時々、良々の声が聞こえてくるだけです。何を話しているのかも、聞き取れません。


良々はしばらくすると、白弥の元に降りてきました。


「ごめんごめん。珍しいね、白弥がこんなところまで上がってくるなんて」


口に手を当てている白弥に、良々は鈴を転がしたように笑いました。


「もうその手はいいよ! さっきはごめんね、白弥」


白弥は少し頬を赤らめて、手を口から離しました。


「今日はわざわざ、どうしたの?」


「あぁ、あのね、今日は月のわぐまのじいさんのお誕生日でしょ? だから、『おめでとう』の手紙を受け取りに来たよ」


白弥は言いながら、良々の前でカバンの口を開きました。


しかし、良々は首を振ります。


「それならたった今、伝えたわ」


「たった、今?」


白弥は丸い目を更に丸くして、聞き返しました。


「どうやって?」


「これよ、これ! ケータイ電話っていうの。これで月のわぐまのじいさんに『おめでとう』を言ったばかりなの」


良々はドングリや木の実がたくさん付いたケータイ電話を見せてくれました。


「みんなこれを持ったら、白弥も毎日働かなくても良いね」


「え……? どうして?」


「だって、手紙を書く人がいなくなるじゃない! そしたら毎日遊ぼうね!」


良々は嬉しそうに笑いました。


「う……、う…ん…」


白弥は郵便屋さんの仕事が好きでした。


届けた先の仲間たちが、嬉しそうに喜ぶ顔を見ることが好きでした。


辛いと思ったことは、一度もありません。


辞めたいと思ったことだって、一度もありませんでした。


「これがあれば、わざわざ字を書かなくても相手に伝わるんだもの。ラクチンよね」


良々はケータイ電話を巣穴に放り込みました。ドングリと木の実のぶつかる音が聞こえました。


「そう……、だね」


うつむいた白弥に、良々は小首を傾げました。


「どうかしたの? 元気がないみたい」


「ううん。何でもないよ」


「そう? ご用はそれだけ?」

白弥は小さく頷くと、ゆっくりと木から降りました。

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