あらいぐまの宗八
まずはあらいぐまの家へと急ぎました。
あらいぐまの宗八は前に、
『月のわぐまのじんさんには、ずいぶんと良くしてもらったんだ。今のあっしがこうしてあるのも、月のわぐまのじいさんのお陰だ。この宗八っていう名前だって、月のわぐまのじいさんにつけてもらったんだ。いいだろう?』
と、仲間たちの前で嬉しそうに話していたことがあったのです。
宗八はきっと、『おめでとう』の手紙を書いていると白弥は思いました。
宗八の家の近くを流れる「月ノ川」の河原に出た白弥は、いつもと様子の違う川に驚きました。
きらきらと陽の光りを受け、澄んだ水が流れる月ノ川が、今は濁った水が勢いよく流れているのです。
岸辺に立つと、鏡のように姿を映す水も今日はありません。
「すごい嵐だったんだ……」
白弥は、変わり果てた月ノ川から目を離し、宗八の家の前で止まり、扉を叩きました。
光ノ山低木林ノ月河原七番地・あらいぐまの宗八
と書かれた木の表札は、ぬかるんだ地面に倒れていました。
「宗八さん! あらいぐまの宗八さんっ」
白弥は扉の前で呼びました。しばらくして、木の扉が開きました。
「おや、うさぎの白弥じゃないか」
宗八は扉を開け、汗と泥まみれの白弥を出迎えました。
「すごい格好だね。転んだのかい? それとも、泥遊びのお誘いかい?」
宗八の問いに、白弥は首を横に振りました。
「じゃあ、どうしたんだい? 白弥があっしの家に来るなんて、珍しいね」
「うん…、あのね。今日は月のわぐまのじいさんのお誕生日でしょ? 宗八さんからの『おめでとう』の手紙はない?」
白弥は尋ねました。
「あぁ、それでわざわざ取りに来てくれたのかい?」
「そうなんだ。昨日はすごい嵐だったでしょ? だから、郵便箱まで来られなくって困っていると思って」
白弥はカバンの口を開けて、それを宗八の前で広げました。その中に、手紙を入れてもらおうと思ったからです。
けれども、あらいぐまの宗八は首を振りました。
「それならたった今、送ったところだ」
宗八の言葉に、白弥は耳を疑いました。
何たって、白弥はこの光ノ山唯一の郵便屋さんなのです。
白弥の他に、誰が手紙を届けるというのでしょう。
「どういうこと?」
白弥は目を丸くして訊ねました。
すると、宗八の家の奥から『ピ−−−ッ』いう変な音が聞こえてきました。
うさぎは長い耳をふさいで訊きました。
「……何の音?」
「FAXだよ。これがあれば、白弥が走らなくても月のわぐまのじいさんに『おめでとう』の言葉を届けることが出来るんだ」
棚の上に置いてあった大きな機械の下から、紙が出てきました。
ロウソクがのった、ケーキの絵が描いてあります。宗八が書いた、月のわぐまのじいさん宛の手紙でした。
「今、みんなこの機械を持っているんだ。だから白弥も、汗をかいて山を駈け巡らなくてもよくなるんだ。最高だろ? 毎日遊べるんだよ!」
宗八はにっこり笑うと、月のわぐまのじいさんに送った手紙をクシャリと丸め、ゴミ箱めがけて投げました。
それはゴミ箱の縁に当たり、床に落ちました。
白弥はちょっぴり、悲しい気分になりました。
それがどうしてかは分かりません。
「そうだ、白弥の手紙も送ろうか?」
宗八の言葉に白弥は首を振りました。
宗八の陽気な口調が、白弥を更に悲しい思いにさせました。
「貸して欲しかったら、いつでも言いな!」
白弥は静かに頷き、宗八の家をあとにしました。




