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うさぎの白弥

うさぎの白弥(はくび)は、「光ノ(ひかりのやま)」で郵便屋さんをしていました。


白弥の家の前にある郵便箱には、いつも一晩であふれるほどの手紙が集まります。


そんなたくさんの手紙を白弥は一日で、それもたったひとりで届けてまわるのです。


その速い足と懸命さが、手紙を心待ちにしている仲間たちにとって、なくてはならない存在だったのです。



山の木々が少しだけ色付き始めた、ちょっと寒い日のある朝ことです。


小さな家から出てきた白弥は、澄んだ空気をいっぱいに吸い込んで大きく両うでを伸ばしました。薄い茶色の毛並みが、冷えた風にそよぎます。


黒くて丸い目を細めて、晴れた空を見上げました。


「いい天気だぁ…」


そして、白弥はいつものように郵便箱のふたを開けました。


「あれ……?」


白弥は目をまん丸にして驚き、郵便箱に顔を突っ込みました。たった一通の手紙しか入っていなかったからです。今まで、そんなことは一度だってありませんでした。


白弥は小首を傾げます。


「おかしいなぁ……」


その一通の手紙を大事そうに手に取り、家の中へ戻りました。


暖炉の火で温められた部屋が白弥を出迎えます。


白弥はテーブルに手紙を置くと、イスに座って宛先と差し出し人を確かめました。



  光ノ山山奥ノ洞穴一番地  月のわぐまのじいさんへ


  光ノ山笹原(ささはら)穴蔵(あなぐら)三番地 もぐらじぃの金蔵より



手紙にはそう書いてありました。


「そっか。今日は月のわぐまのじいさんのお誕生日か。これは、もぐらじぃからの『おめでとう』の手紙かな」


白弥はつぶやくと、温めた山羊のミルクをゴクゴクと飲み干しました。


「……でも…。去年はもっと……」


白弥は更に小首を傾げて、考え込みました。


ちょうど一年前は、月のわぐまのじいさん宛にたくさんの手紙が寄せられていたのです。


たくさんありすぎて、届けるのに三往復したことを思い出しました。


月のわぐまのじいさんはこの光ノ山の象徴で、豊富な知恵と穏やかな優しさで光ノ山の仲間たちを平等に愛してくれる存在でした。


うさぎの『白弥(はくび)』という名も、月のわぐまのじいさんがつけてくれたものです。


光ノ山の仲間たちは、月のわぐまのじいさんのことが好きでした。


だからこそ、毎年のお誕生日には、たくさんの『おめでとう』の手紙が寄せられていたのです。


しかし今年は一通だけ。


白弥は不思議そうに首を傾げました。長い耳もうなだれます。


そっとイスから立ち上がり、窓の外に目をやりました。


「あらら…?」


白弥自慢の立派な畑がめちゃくちゃです。


昨日までは空に向かってピンと立っていたニンジンの葉も折れていました。


「……そっか…!」


白弥は手のひらをポンと叩きました。


「昨日の夜は嵐がひどかったから、そのせいでみんな郵便箱まで来られなかったんだ!」


白弥は昨晩の嵐を思い出します。雨粒が窓を叩き、風がゴーゴーと家を揺らしていました。


とてもはげしい雨と風の一夜でだったのです。


「きっとみんな、月のわぐまのじいさんさんに『おめでとう』の手紙を出したかったはずだ。出せなくて、みんなきっと困ってるだろうなっ」


白弥はうなだれていた長い耳をピンと立てて、大急ぎで支度を始めました。


手紙をそっとカバンにしまい、家を飛び出します。


「みんなが来れなかったのなら、ぼくが受け取りに行ってあげればいいんだ」


白弥は水たまりばかりの柔らかい道を懸命に走ります。


月ノ山に住むたくさんの仲間たちのもとへ行かなければなりません。そして、何としてでも今日中に月のわぐまのじいさんへ届けなければいけないのです。


「急がなくちゃ!」


ズボンにはたくさんの泥がはねてしまいました。


足は泥で真っ黒です。それでも、白弥は構わずに歩きにくい道を走りました。

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