ON AIR1 代行のエアギター演奏
女子バンドリーダー、皆川都会子は、アマチュアバンドライブ第一審査用演目の会場入りを辞退した。
彼女の養父でもあり、祖父でもあった家族が急病にかかり入院した報告を受けたのは、まさに第一審査演目ステージ入り当日だ。
ステージ入りを臨時に辞退したはずが、主催側に届かずにこのままだとメインギター演奏抜きだ。メイン演奏なので、不成立のまま参加権は剥奪。結局はアマチュアの道は振り出しになる。
今この時により2時間前――
狛原青空舞台劇場は、アマバン最終会場として使われるラストステージだ。そのステージ管理者だった青年が音楽関係を断念し、ある少女と接触したのだ。
ギタリスト目指すなら養成学校で一から始めないといけないと説明し、彼女から去っていった。
その彼女……少女は、薪浦吹奈。ギターに憧れるが音楽関係は音痴だ。
元ステージ管理者の説明通り、養成学校に行くか悩んでいた。
今日は、バイトは無くて稼いだ給料から格安の楽器欲しさにショップまで出向いたのだ。
吹奈は、店長らしい人からおすすめの安めのギターを紹介されてそれを購入した。以前使いこなせないまま買い取りされた中古ギター。
それでもまだ演奏可能なので店に展示されていた。
店長らしい人の計らいでバック代無料でもらい収納したそれを抱え込む吹奈。
そのまま、アマチュアバンド生演奏ライブに直行した。
生まれて初めての会場なので、ライブハウス内の道順で迷う程の方向音痴の吹奈は、施設オーナーから『ブルーム・フラット』のメンバーが一人のみ揃わない事を知ってか勘違いして控室に案内されたという。
生まれて初めての環境であたふたしてうまく言葉がまとまらずに観客席探しの旨がオーナーに伝わらなかったという事を控室のメンバーに判るようにスローで告知した。
「ギターあるから間違われたか。セッションタイムもない。エアギターで音源テープを足元スピーカーで流しごまかす。メインギター演奏の音源だからうまく行けると思う」
と、メンバーAが……続いて、
「不正バレバレでしょ。ヤバくね? もう出場辞退しないとさ」
と、メンバーBが返す。
やる気無さが漂う空気に吹奈がぶつかった。
「あたし……エアで弾きます。みんなの演奏を死守しますのでカバーよろしくお願いします‼」
空気の流れや風向きが変わった。ブルーム・フラットのメンバー全体に再び士気が湧き立ったのだ。