花壇とおぱんつ
我が学校では、校内美化の一環として校舎の裏庭に花壇がある。
まさか朝早くに登校して、校長と校内美化活動に精を出す日が来るとは。
見渡すと花壇は全部で3つあり、少し大きな印象だった。
一つは、赤い実をつけた、今にも食べられそうなプチトマトの花壇。
その隣は一面緑。瑞々しい葉が花壇を覆っていた。
こちらは何を植えてあるのか分からないが、家の食卓に並んだことのない植物に思えた。
『校長先生、雑草は?』
そう聞くと、プブフォ!と音を立て、激しく咳き込んだ。
「小松菜だよ。スーパーで見かけないかい?」
『俺が行くスーパーではあんまり』
あんまり、と答えたが見た覚えはなかった。
聞けば、かつては花が好きな先生いて、率先して手入れしていたらしいが、ここ1年花壇は全く使われていなかったそうだ。
「使わないのは勿体無いものなぁ。
人の目に触れる場所じゃないが、だからこそ生徒が利用してくれるのは嬉しいもんだよ」
そういうと、慣れた手つきで種を撒いていく。
何をしていいかも分からず、なんとなく黙って見ていた。
「そうだな、トマトを収穫しといて貰えるかな」
足元にあったハサミと小さめのバケツを渡される。
「茎を長めに残すのがポイントだそうだ。
実を傷つけないよう優しく包むように持ってな」
ハサミを持っていざ、と思うと、初めましてのことにどうも緊張してしまう。
試しに1番大きく実がなったプチトマトの茎を切ってみる。
ハサミを前にした茎はあっけなく無力に切られてしまい、左手の中にプチトマトが収まった。
それをバケツに入れるとそのあとは早かった。
15分くらいだろうか。花壇にあったプチトマトは、実に緑色の部分があるものは残して全て収穫した。
15分も向き合っていると、この赤い実を食べてみたくてたまらなくなった。
ひょいと摘んで試しにひとつ食べてみた。
甘い。
多少の青臭さは、むしろ清涼感を感じさせてくれるアクセントに感じられた。
なによりこんなに酸っぱさを感じないトマトは初めて食べた。
『校長先生、このトマト美味しいです。
よかったら食べますか?』
「ダメだよ!!」
振り返ると委員長がいた。
「そのミニトマトは地域の人たちに配るんだから!」
農のミニナイチンゲールはそう言った。
そんな大きな目的の為に栽培されていたとは知らなかった。
「で?」
『でって?』
「美味しかった?」
『お、美味しかった』
そう告げると、満面の笑みを浮かべて足早に去っていった。
一体いつから居たんだ。
〜キーンコーンカーン〜
8時15分を告げる鐘が鳴った。
「手伝ってくれてありがとうな。
後片付けはしておくから」
夢中で畑仕事に精を出していたせいで、これから授業が始まることさえ忘れていた。
『プチトマト、どうすればいいですか?』
足元を見て、思わず素っ頓狂な声が出た。
トマトを入れたバケツがなくなっている。
辺りを見渡すが、赤く輝くトマトが視界のどこにもいなくなっている。
「あぁ、さっき藤田くんが持っていったよ」