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おぱんつものがたり  作者: くま
5/9

ほっぺたとおぱんつ

玉ねぎ一玉分の重みは、足の裏の疲労を軽くさせた。


建て付けの悪い赤茶色の引き戸をそろりと開ける。

「おっ、玉ねぎがやっと帰ってきた〜」


廊下の奥から、軽快な足音と共にショートカットで細身、低身長の我が妹が出てきた。


「もう遅かったじゃん兄上(あにうえ)

お母さん帰ってきちゃうから早く作るよ」


妹に急かされるまま、台所へ向かう。

この家は台所へ向かうのだって一苦労だというのに。


家の廊下には、ところどころに線が引いてある。

これは小学生の頃なぜかポッケに入っていたチョークで描いたものだ。


避けて歩かないと靴下に付いてしまう。どころか、

「兄上は重いんだから気をつけてよー!

特にこことか!もう床抜けちゃいそうなんだから」


そう。床が抜けちゃいそうなのだ。


いつもの足取りでキッチンにたどり着き、袋から玉ねぎを取り出す。


我が妹は慣れた手つきで、塗装のハゲまくった鍋に蛇口から水を注ぎ、火にかけた。


次にコンソメの素を、キッチンの下にある引き出しから取り出した我が妹は、いつにも増して楽しそうだった。


「今日さ、給食にケーキ出たんだよ!

二口で食べちゃったけど、ほっぺた落ちそうだった」


なるほど、それで落ちたほっぺたを引き上げるためにニコニコしてんだな


「兄上、ビンゴ」

そういってまな板の上に並べた5つの玉ねぎの中から、一つを手に取り、皮を剥き始める。


かわいいやつめ

ならばもっと引き上げさせてやろうじゃないか


まな板に並んだ5つの玉ねぎ。

このままだったら、ただのスーパー・キタジマで月一度の特売日に買ってきただけのもの。


しかし今日は違う。

袋の中から、さらにもう一つ玉ねぎを取り出す。


「...!!!あっ!!あっ...兄上!?」


我が妹は動揺を隠せないご様子だ。

兄としてこんなに誇らしい瞬間がかつて幾度あっただろうか。

ほっぺたが引き上がっていくのを感じる。


反比例して、ほっぺたが落ちていく我が妹。

少しずつ表情も目線も落ちていき、ゆっくりと口を開いた。


「兄上...盗んだの?」

『ぬぅ?!盗んでないよ!!貰ったんだって!』


そう伝えても、あまり納得のいっていない顔をされた。


仕方なく、クラス委員の子と一緒に帰ったら、たまたまスーパー・キタジマのキタジマさんの孫だったことなど、一通りのあらましを説明したら、やっと盗んでいないことを納得してくれた。


納得したどころか、給食のケーキの話よりも口角は上がっていた。


「ただいまおまたせー」


我が妹のほっぺたを取り戻したところで、我が母の声が玄関から聞こえてきた。


いつもは帰ってくる前に晩ご飯を作り終えるのだが、今日は間に合わなかった。

隣のショートカットはそれを伝える為に、皮剥きの手を止めて、振り返り、大きく息を吸い込んだ。


「ママ上ー!兄上に彼女出来たよー!」


「彼女ぉー?!」

『彼女ぉー!?!?!?』

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