片隅におぱんつ
久しぶりに解いた課題が脳に与えた影響はだいぶ大きくて、保育園の時親から貰った漢字ドリルが頭をよぎった。
俺は他人より優れていく自分を。
親は初めて自ら学習を求めた我が子の成長を喜んでいた。
地下深くで地震が起こると、地表では、震源から遠い場所なのに1番大きく揺れることがある。
今見える地表からでは、与えられてもいない課題を追い求めた地層を発掘することは自分でもできまい。
気がつくと、どうやらプリントを枕にして眠ってしまっていた。
昼ごはんを飲み損ねたせいで活動するだけの栄養が足りてなかったのかもしれない。
そう思うと、委員長に文句の1つでも言いたくなってきた。
下校を促す柔らかい音楽が、粗末なスピーカーで台無しにされながら流されている。
たまに鼓膜に引っかかるキュルッという音は眠気覚ましにもってこいのようだ。
さて、帰らなくちゃ。
門限まではまだ幾分時間はあるが、寝ることが難しい場所に居座ることは難しい。
鍵をかけて部屋を後にする。
教室にカバンを置いたままだから、取りに行かなくてはならない。
グラウンドや、各部室となる家庭科室や音楽室のある校舎と違って、クラスが割り振られた教室が居並ぶこの校舎は自分一人しかいないのかと思うほど静かだった。
階段を一段ずつ降りる。
廊下を左に曲がってトイレを超えれば教室だ。
全ての段差を降りきった時だった。
「委員長さぁー。掃除当番すっぽかしたのー?
お利口ちゃんなのにだめじゃーん」
実績がないのに自信を持ったあげく、相手を推し量る力がない者にしかできない人間の軽視。
その両方しか感じられない声とともに笑い声も幾ばくが聞こえてきた。
「すっぽかしたのはあなた達でしょ」
「お願いって言ったじゃーん。
オマケに先公にチクるってマジ卍じゃねー?」
どうやら委員長が、クラスに3人でいる可哀想な女達に絡まれてるらしい。
ボタンの止め方がわからないからいつも上から何個か開きっぱなし。
筋力がないから股も開きっぱなし。
1人で過ごすことができないのにクラスメイトを勝手にカテゴライズしては距離を起き、差を開かれていく可哀想な女達だ。
「掃除してるとこ見てる先生がいただけでしょ。
そもそも下校時刻は正門に先生いるから、帰るとこ見れば当番サボったの気づかれてるよ」
小柄な委員長だけど、可哀想な女と話す声を聞いてると存在の大きさに高揚感を覚えるな。
「ち゛ょうしのるな゛よテメー!」
『帽子のツバぁ??』
間抜けな声に可哀想な女達が一斉に振り向いてきた。
なぜか人を遠ざける目をしている。
また1つ俺を上に押し上げる目だ。
「ちっ、マジ卍だわ」
脇を通る際ぼそりと呟いて、女達は階段を降りていった。
マジ卍って何語なんだろ。意外と帰国子女なのかな。
「後藤くん。。なんで教室に?」
『カバン取りにきただけ。あと、これ』
「えっ!?課題やったの!偉いね!!」
保育園の時の、俺を褒める母さんをまた思い出した。
それと課題を出したのは、どうせ自分で持ってると何処に置いたか分からなくなるから渡しただけだ。
「あっ、今日はあのー。ごめんね。
あの後授業来なかったから、傷つけたと思って心配だったんだ。もし学校来なくなったらどうしようとか」
『いや、寝てただけ』
「課題してね。ほら、帰ろ。一緒に」