2話 課題とおぱんつ
まずいまずいまずいまずい。
すっかり忘れていた。今日は、、、
今日はパンティの日だった。
『い、いや。違う。。』
声が消え入る。
『まっ!待って後ずさらないで!!
聞゛いて!!!』
思ったより声がでかくなっていたようで、廊下にいる、なんかやってる奴らのフォーカスがこちらに集まるのがわかる。
ちっちゃいツインテールは動揺した表情を浮かべている。
とにかく、今ここに留まりたくない。
『お願いです来てください』
ボソッと声をかけて、ある部屋に向かって歩き出す。ツインテール(小)の足音がすぐ後ろに聞こえ続ける。
やがて2人分の足音しか無くなって、足を止めた。
すかさず真横の扉を無言で引く。
少し抵抗を受けながら、扉をねじ伏せる。
「ここって、、」
その言葉を無視して部屋に入る。
相変わらず埃っぽい。窓から入る日差しが、そこかしこにオーブを捉える。
かなりの抵抗を受けながら、(小)は扉を閉めて、2人だけの場所になった。
『課題、、返すよ。どうせやらない』
「あっ!う、、うん。ごめん。
あの、、ほんとごめん」
紙が受け渡される音がパリパリと鳴ったのを最後に、いくばくかの沈黙が流れた。
「・・・さっきの。聞いてってのh」
『パンティの日なんだ』
耐えきれない思いを遮られないよう、伝える。
小さなファルセットが、は。
もしくは、へ。と音を作る。
『・・・家お金なくて。
パンツ買えないんだ。だから、あるもの履くしかなくて』
「・・・そう・・なんだ。
あ、、あのっ!100均にも売ってるんだよ。
100円で買えるよ」
『108円な。
数ヶ月後には110円か。
でもそのお金持って、月一の特売日にスーパー行けば玉ねぎ5つ買えるから』
「キタジマ?」
若者が自らその名を口にすることに驚いて、顔を上げる。
目が合うと、(小)は俯いた。
下町のと言うには小汚い。
昭和チックではどうかしてる。
レトロと例えるにはあまりにもゲテモノ。
ソレは、ご多聞に漏れず消えてゆくべきスーパーのひとつであり、彼のダーウィンの名言を否定する唯一の存在である。
スーパー・キタジマだ。
(小)が、月に一度の特売日の存在まで知っているとは。
『そっ、そうだよ。キタジマ』
やれば出来るけど面倒くさいからやらない、に次ぐダサい言葉を言わされてしまった気がした。
「なんか、、ごめん。
・・好きで履いてるわけじゃないなら良かった笑
あと、これ置いとくから。
。。じゃあっ」
そういうと、抵抗するドアをねじ伏せて教室へ戻って行く。
背中を見送ると、長机の上に置かれた課題とやらと、久しぶりに目を合わせた。
寝起きの人間のような目つきをして、課題以上の存在感を放つプリント。
メタボリック先生の英語の課題はたぶん変わっていて、先生自身も少し変わっている。
「ニンゲン、コトバのほかはイッショ!」という口癖を引っさげて教壇から放つ熱量は、少なからず地球温暖化を助長させているはずだ。
見ると、プリントの中央には、外国人が目を見開き頭を両手で抱えながら叫んでいる写真。
その周りにはいくつかの英語が書いてある。
どうやら英語の下のスペースに日本語訳を書けばいいらしい。
「文字と向キアウのタイヘン!人と向キアウのカンタン!!」
というメタボの口癖通り、英語は見ずに写真の外国人をじっくり見る。
びっくりしてるのかな。
涙が滲んでいるような。でも口角は上がってる。
俺がこんな表情になるとしたら。。
クリスマスにサンタがやって来て、次の日靴下の中に5枚くらい新品のパンツ入ってるな。
クスリと笑いがこぼれた。