【七】究極の三択
翌日いつもの様に朝学校に行く支度をして、
母に見送ってもらった。
「ねぇその足で学校まで行けるの?大丈夫?」
母は私の足を見ながら心配そうにオロオロしている。
「大丈夫大丈夫!昨日も帰ってこれたんだからそれに余裕を持って早く家出てるし大丈夫だよ」
「そう?なんかあったら連絡してよ」
「わかった!行ってきます!」
母は大雑把な性格だが心配性でもある。
空は9月だと言うのに暑い夏のようにキラキラと晴れていた。
自宅の近くには山々が沢山あるので空気が綺麗で
とても気持ちがいい。
いいスタートがきれそうだなぁ。
そう考えながらいつもより早い電車にのり学校へと向かった。
校門をくぐり入ってすぐの所がとても賑やかだった。
何か騒ぎでもあったのだろうかと思い人混みをかき分けてながら校舎へと続く庭を進む。
にしても女の子ばっかりが集まっておりなんだか悲鳴のようなものが聞こえてくる。うん。気になる。
怖いもの見たさで女の子の間からその騒がれている中心部分に目をやるとそこには女の子たちに囲まれてどうしようもなくなって今にも限界寸前の笑顔な彼方が立っていた。
なんとまあ、
少女マンガでありがちなシーンなのだろうか…。
違うところといえばイケメン本人がぶち切れそうな笑顔をしていることだろうか。
内心助けようか迷いながら少し様子を見ていると
こちらに気づいた彼方。
なんて恐ろしい顔。美形のブチギレ顔は拍車がかかっていておぞましく思う。
案の定彼方は
「た・す・け・ろ」と口パクで助けを求めてきている。
私には大型犬が唸ってるようにしか見えないがみんなからはあの笑顔が飛びっきり素敵に見えてるんだろうな。
恋とは恐ろしいな。
そうか!初めて名前を聞いた時から聞き覚えがあると思ったら高校入学した日からひとしきり話題になっていたイケメン爽やか笑顔の彼方くんとは彼のことだったのか。
イケメンはイケメンだったが爽やか笑顔では無かったので今の今まで気づかなかった。
それにこんなに囲まれていたらそりゃお目にかかること少ないか。なんて勝手に納得。
そんな大騒ぎになっていた彼と関わりたくないが昨日は色々お世話になったので意をけして助けに行くことに。
決心したもののどう助けるべきだ!
すごい量の女の子たちに囲まれていてとてもじゃないけど彼方の所までたどり着けない。
~助ける方法~
その1 頑張って女の子たちの間を潜り助ける
その2 女の子たちの気を何かに逸らす
その3 大きな声で彼方を呼ぶ
上の1は私が潰れる。私の身が危ない怪我をしては助けられず元も子もない。
その2は彼方のことを越えられる目線を釘付けにするものは無い。腹立たしいが。
よし。その3がいちばん無難に安心だろう。
周りからしたら変な目で見られるかもしれないが腹に背は変えられない。
私は校舎の裏口に続く脇道の大きなザクロの木の下に移動して大きく息を吸う。
『彼方ぁぁぁあ!!!!!!!』
これでもかとばかりの大声を出した。
すると女の子たちの視線は彼方から一気に私のいる方向に目線が向いた。彼方はダッシュで私の横の脇道へと走ってくる彼方を見てリレーのように少し先へ校舎に走り込む。
「お前本当に容赦ないな」
「え?1番安心安全な方法じゃない?
てかお前って呼ぶの2回目よ」
「女には思えない大胆さだな」
そうお腹を抱えて笑っている。
確かにそう言われてしまえば女としてはみっともない解決法だったかもしれないと自分のした事のやばさを改めて実感して顔があつくなってくる。
「でも助けてくれてありがとうな。
朝から窒息死で死ぬかと思った。」
「もしかしてそれで制服破れたの?」
「おう。女が珍獣のように見えた」
「さすがにそう思うかもしれないね」
改めて私たち2人は人間の愛から来る恐ろしさにゾッとした。