【四】美少年との出会い
大きな声がした方に振り返ったがここは川の中で足場も悪くゴツゴツした石に右足がハマった。
不幸中の幸いと言うのだろうか。
川から流される可能性が無くなったが水位の高い川。
おしりまで浸かっていて水の抵抗で真っ直ぐ立つことが難しくなってきた。
視界の隅で私を引き止めたであろう制服を着た青年が傘を投げ出し慌てた様子で走ってくる姿が見えた。
青年が階段を降りてくる途中にふと橋の奥にあるダンボールへ目をやった。一瞬動きが止まったが目を見開いて驚いた様子だった。
やっぱりダンボールの中に動物が居たのね。
そう確信をした。
だがこの状態では先にはすすめない。
それに石で足が切れたのだろう。
段々と痛くなってきた足に負荷をかけるように左から水が迫ってくる。足首が捻挫した様な痛さも感じる。
このままでは酷くなると思い右足を両手で持ち勢いよく引き上げようとしたその時
「ちょいちょいちょいちょい!!!」
「何してるんだ!ちょっと待て!!!!」
と声を荒げて青年は階段を駆け下りていたはずが振り返れば顔と顔が当たる様な距離で私の後ろにたっていた。
「うわっ!!」
突然の青年のドアップな顔面に度肝を抜かれて更に
バランスが崩れた。
パシッ!
「あぶないって!結構な雨で川は氾濫してる!あんたまで何かあったらそれこそダンボールの子は助けられないぞ!」
私を見つめるその目には心配だと感じ取れる優しい眼差しと、馬鹿だと言うことを聞けと言わんばかりの厳しい視線を私に向けている。
確かに彼の言う通り。
「心配してくれてありがとう。それにあなたまで危ない目に遭わせてごめんなさい。でもダンボールのあの子が心配で。だからお願い。あなたは土手を一周して向こうから助けて欲しい。」
「わかった。でも先にあんたを助けてからだ」
「…ありがとう」
彼は私の足元の石を川に手を入れ避けてくれた。
そのおかげであれほど抜けなかった足がするりと抜けた。
「よし。これで身動きは取れるな」
「えぇ、迷惑をかけてごめんなさい。」
一刻も早く土手にあがりあの子を助けなきゃいけない。
右足も痛むがそんな事言ってられない。
だが平面の道ではなく足場も悪い足を着いただけで捻挫した足は痛みが増す。
だが土手に行かなくては何も始まらない。
ゆっくりでいいまた流されないように慎重に進もう。
「はぁ…。」
そんな私を背の高い彼は見下ろす様に見ていたが
ため息とともに腰に手をやり右手で顔を多いかぶせていた。
何か言いたげだ。
「あんたもう少し人に頼れ。」
そう言い私の腰に手をやりひょいっと持ち上げた。
世にいうお姫様抱っこだ。
「えぇ!あの、大丈夫です!下ろしてください!
歩けます歩けますから!」
そんなことを抜かす私にまた呆れたような顔をした。
「この水位でまた流されたらどうする?
身長小さいんだから無理するな」
わかる。確かに私は身長が小さい。
彼に比べると頭一個分、いや?2個分か?
それくらいの身長がある。
私でおしりまで浸かっていた川も彼は膝上をすこしこえるくらいだろうか。
事実だが︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎身長小さい︎︎ ︎︎ ︎︎"はマウントを取られている気がする。
そんなことを考えていたらもう土手についていた。
ゆっくりと橋の下の背もたれにももたれ掛けれるように
降ろしてくれた。
「これきてここで待ってて。
傘置いて走ってきたから濡れてるけど悪いけど我慢してくれ。な?」
来ていたカーディガンを私の頭にバサッと落とした。
「えっ!ちょっと!ってもういないし」
カーディガンを置いて言ってくれた彼はもう階段を登っていた。
彼はとてもいい人だ。
見ず知らずの私を助けてくれて制服までびちゃびちゃ。
それに走ってあの子を助けに向かってくれた。
「いたたたっ」
右足を置いてあった場所には小さな赤い水溜まりが出来ていた。血が水と混ざって軽くホラーだ。
やっぱり石で足が切れていたようで彼が助けてくれたからそんなに傷は深くない。
捻挫した部分も色が青緑に変色している。
濡れて寒いが血が出たこともありより体温が下がってきた。彼が置いて言ってくれたカーディガンを着ながら
ダンボールを見つめる。
「大丈夫だといいな。」
そんなことを考えていたら向こうの階段を下ってくる彼の姿が見えた。どこをどうショートカットしたのだろうか流石男子高校生早すぎる。
彼は急いでダンボールを開けて中を見た。
その瞬間大きく肩をビクッとあげた。
彼はゆっくりとダンボールに手を入れ真っ白の毛のあの子を全身で包み込むように抱き上げた。
すると彼はこちらに目をやり立ちがあり、
「あんたその足でも歩けるか!」
川の向かいからでもこの足が見えたのだろう。
「えぇ!歩ける!」
「よし!その階段を上がって左に進んできてくれ!」
「わかった!」
いつの間にか上がったいた雨。
もう使わない彼の傘を閉じでバッグを持って階段を上る。
あれから歩き進めて向こうへと繋がる橋まで来た。
ちょうど同じタイミングで着いた彼の腕の中にそっと顔を近ずける。
そこにはこの寒さの中でかなりずぶ濡れになっている“狐”の様な小さな子が丸まって抱っこされていた。
触れてみると手が反射的に引っ込むほど体は冷たくなっていた。これじゃいつ亡くなってもおかしくない状態だ…
「このカーディガンきせてあげてもいい?」
「あぁ。大丈夫着せてあげて。」
私が彼が先程貸してくれた淡い紫色のカーディガンを
脱ぎ狐の様な子を包み込んだ。雨で濡れてしまっているがニット生地なので少しは温まるだろう。
「その前にこのままじゃこの子危ない。」
下を向きその子を覗き込む彼氏。
「この近くに動物病院はないの?」
と彼に問うと
「多分この子は動物病院では見て貰えないだろう。
俺の父さんがオーナーを務める喫茶店が近くにあるんだ。そこで手当しよう」
少しだけ先を歩く彼の後につき私の荷物を持ってくれている彼。私は彼からこの子を預かり狐をぎゅっと抱きしめながら喫茶店へと向かった。
でも、段々と人気の多い商店街へと入っていった。
何故か周りはヒソヒソと私に対して指をさし輪を作って不気味ねと聞こえるか聞こえないかそんな小声で言い気味の悪そうにしている。
確かにビチョビチョだがわざわざ指をさしてまで話をすること?それともこの子を抱き抱えているのはそんなに気味の悪そうにする程なのだろうかと
少し不機嫌になりながらも彼の後を付いて行った。