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【あやかし事件は喫茶店にて】~私たち前世の鬼録と呪い~  作者: 綺月蒼
彼と出会う少し前のお話
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【二】甘い匂いと不思議な出会い

あれから数分歩くと、フルーツとバターと生クリームの香りが鼻をくすぐる。とてもいい香りでどこからかと周りを見渡すとそこには可愛い桃色が壁一面あしらわれているケーキ屋さんがあった。


学校の近くにこんな素敵なケーキ屋さんがあったなんて知らなかったわ。


外から店内が見える内装で、ショーケースにはイチゴが艶々と輝いていてボリューム満点のショートケーキやマスカットの沢山のったタルト、カラフルなマカロンがずらりと並んでいた。





「可愛い」





思い返せばケーキなんてここ最近口にしていなかったな。


私は甘いものが大好きで特にケーキには目がない。

付き合って数ヶ月した時デートで、立ち寄ったカフェにフルーツがゴロゴロと沢山入った宝石箱のようなケーキがショーケースのライトに照らされてキラキラと輝いていた。

その可愛い見た目に思わず一目惚れした私は彼に一緒に食べようと提案をしたが、甘いものが嫌いだった彼氏は一緒に食べる事も、目の前で私が食べているのを見ているのも嫌そうだった。その時の彼の表情は今でもずっと脳裏に焼き付いて離れない。


それからというもの彼の前では甘いものを口にすることは段々と少なくなり最終的にはもう何ヶ月も口にしていなかったな。




そう思うと彼は優しい人だったけれど、フラれて1度落ち着いて考えると気難しい人だったなと思う。



どこか私を所有物の様に扱う彼に違和感を抱きつつも、好きだったから別れたくなかったから嫌われたくない一心で、気づかないように考えないようにしていたけれどこの数年間、どれほど自分に嘘をついて言い聞かせて生きていたのだろうか。



楽しいことも沢山あったけれど、恋は盲目と言われる理由がわかった気がするわ。




はぁと言葉にならない溜め息が木霊する。



雨風になびかれながら少し道を進む。

すると鼻にスンと甘いパンの焼ける香りが横切る。

なんていい香りなの。



シトシトと雨が降る中焼けてすぐのあたたかいパンの香りは私のお腹の虫を騒がせた。

時計の針は5時半を指している。もうとっくにお昼は食べたお弁当はすでに消化済みで失恋してもしっかりお腹は空く。



なんとも言えない優しい甘い香りに負けてしまい、

折り畳み傘についた水滴を振り払い傘立ての隣に置いた。



そこまで大きくないお店だが存在感のある白いレンガに差し色で扉と窓の縁には若草色があしらってある。

店内に入ると洋風な外装とは違いどこか懐かしく感じるような内装。


例えば駄菓子屋の様な祖父母の家の様な安心感のあり

とても居心地のよい店内だ。

落ち込んでた心もホッとした。




外にいる時あまり気づかなかったがあの小さな折り畳み傘だけでは雨はしのげなかったのか制服は雨風で色を変え、そこから水滴が数滴滴る。




店内をぐるりと見渡すとレジの奥には9月の花の象徴でもある秋桜が沢山描かれたのれんがかかっていた。



そして店内を囲むようにして並べられたパンは種類は多くないけれどれも美味しそうで綺麗な黄金色をしている。

その中でも目立って白いパンが視界に入る。

これは母の大好物で空気のようにふわふわモチモチの白パンね。

その隣には父がよく自分のご褒美にと良く食べていた餡子のちぎりパンが並んでいた。




自宅の近くにあったパン屋も無くなってしまい滅多に食べることがなくなってしまっていたからお母さん達きっと喜ぶわね。お土産で買って帰ろう。

そう思いパンを見つめていると後ろからのれんが擦れて持ち上げられる音がした。



後ろを振り向くとそこには小柄の白い髪をお団子頭にしたおばあさんが立っていた。




「よういらっしゃい。」そう私に微笑んでくれた。

あぁなんて癒される空間なのだろうか。

美味しそうな香りのパンに人の良さそうなおばあさん。

そんなことを思っているとおばあさんは私の顔をジーッと見つめ、何かを思い出したようにまた、のれんの奥へと戻っていった。



少ししてから丸いお盆を手に持ったおばあさんがこっちおいでと手招きでレジカウンターの横にある小さな2人がけのテーブルに案内してくれた。




おばあさんは私の顔を覗き込み心配そうな顔をしている。



「そんなに暗い顔をしてどうしたんだい?

こんなに寒い雨の中来てくれたのも何かのご縁だねえ。

暖かいお茶と出来たての胡桃パンだよ。さぁお食べ」

と私に椅子を引いてくれた。




初めて会う私にとても親切にしてくれる優しいおばあさんにちょっぴり涙が出そうになる。



「ありがとうございます。美味しそうなパン。お言葉に甘えていただきます」



おばあさんにお礼をいい手を合わせた。

とても香ばしくいい香りの胡桃パンに豆から引いたであろうコーヒー。



まずコーヒーを1口。次に大きな胡桃パンを1口サイズにちぎり横に着けてくれているバターをつけて頬張る。

ほのかに香るはちみつの香りに噛めば噛むほど甘くなる生地そこに胡桃独特の香ばしさにパリッとした食感がたまらなく美味しい。

これは最高の組み合わせね。





2口目を口に運んだ。まさに頬が落ちそうとはこの事か。



「こんなに美味しいパン初めてです。頬が落ちちゃいそうです。」


そうほっぺを触りながらおばあさんに目線をやるとニコニコと微笑ましく私のことを見てくれていた。




「暗い顔してたから何事かと思って心配したよ。

笑顔になって良かったよ」



そういい私の向かいの椅子に腰かけた。



「それに代金は良いよ。舞梨ちゃんだろ?」



と首にかけていたメガネをかけながらそういった。



どうして私の名を。

もしかして来たことあった?いや記憶にないわね。

と頭をフル回転する。




「代金は払わせて下さい。こんな美味しいものをタダで頂く訳には。それにおばあさんどうして私の名を知っているの?」



「そうかい、律儀にありがとね。

どうして名前を知ってるかはね、いつか舞梨ちゃんが思い出すまでのひみつだよ」



とクスクスと笑っていた。



それから何気ない会話をしているうちにペロリと完食した。はぁなんて幸せな時間。ご馳走様でしたと手を合わせた。



ついでに母と父の好物のパンも一緒に購入した。



「ご馳走様でした。ご親切にして下さりありがとうございました。また来させてもらいますね!」



「ようお上がり。またいつでもおいで。

困った時にでもまた寄ってちょうだい」



と私の手をギュッと包み込んだ。

どこか懐かしいなこの感じ、やっぱり昔にでもこのおばあさんに会ったことあるのかもしれない。でも思い出せないし、まぁいつか思い出すでしょ。なんて考えながら扉まで見送りに出てきてくれたおばあさんに手を振り傘をさしてまた歩き進めた。




外は先程より日も落ち寒いはずなのに、コーヒーと温かい胡桃パンのおかげで私の体はポカポカだ。




良いおばあさんに出会えた。それにとても美味しいパンだった。

またお礼を兼ねて伺わせてもらおう。







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