【二十三】再会と結界
重い結界を前にして私も彼方も息を呑む。
彼方は決心が着いたのか真剣な眼差しで呼び鈴を押すとジジジジッと低い音が鳴り響いた。
少ししてから石畳を下駄で歩くる音が聞こえてくる。すると大きな扉がゆっくりとギーッと音を立てて開いた。
そこには淡い紫色の着物に真っ赤なルージュの紅を指し、耳には雪のような上品なパールを着けた背の小さな可愛らしいおばあさんの姿があった。
「寒い中よくいらっしゃいました。わたくし本日ご案内させていただきます。幸乃と申します。
さぁさぁ、外は冷えますので中へどうぞ。
坊ちゃんがお待ちです。」
「初めまして。折坂と申します。突然の訪問申し訳ございません。」
彼方が横でぺこりと頭を下げた。
「こんばんは。明日見と申します。
本日はよろしくお願いします。
あの。私の勘違いかもしれないのですが、どこかでお会いしたことありますか?」
そう。おばあさんを見た時から、どこかで会ったような気がして聞いてしまった。
「そうですね。お会いしたことありますよ舞梨ちゃん。」
「なぜ私の名前を?」
「ははっ。そうだねその質問も2回目だねえ。
雨の降ったあの日暗い顔をして私のパン屋に来ただろう?覚えてるかい?」
「あ!あの時のくるみパンのおばあさん!」
「幸乃さんと舞梨ちゃんは知り合い?」
彼方は何事かと言わんばかりに不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んでいた。
「ええ!あの日!彼方と初めてあった日におばあさんのパン屋さんでパンをご馳走になったことがあるの。」
「そうなのか。本当に凄い偶然だな」
「本当にびっくりしたわ。」
「本当に偶然ね。久しぶりだね。元気してたかい?」
「はい!とても元気にしてました!」
「そうかいそうかい。それは良かったよ」
そう言いあの時と変わらない笑顔を私に向けてくれた幸乃さん。
「でもおばあさんがなぜここに?」
「私は坊ちゃんの世話役で先代当主の時からここでお世話になってるのよ。パン屋は元々私の夫と一緒に営んでいたんだけど亡くなって私が跡を継いだの。坊ちゃんがお仕事の時に週に数回程しか開けてないんだけどね。それと後貴方のおばあちゃんともお友達よ。」
知らなかったでしょとふふふっと着物と同じ色のネイルをした小さい手で真っ赤なルージュの紅を指した口を隠して笑っているおばあさん。
「私の祖母と友人だったんですか?」
「古くからの友人でねそれはそれは仲が良くて。
あなたが産まれた時なんて孫が生まれたから会いに来てって言うものだから会いに行って私も抱っこさせてもらったのよ」
「赤ちゃんの頃から私の事を知ってたんですね。」
「そうよ。凄いでしょう?でも最後にあったのはまだ貴方が赤ちゃんだったから覚えてないわよね。
あの日雨の中会った時、一目見て舞梨ちゃんだって思ってつい声掛けちゃったのよ。」
「なぜ私ってわかったんですか?」
「あなたが若い時のおばあちゃんにそっくりだったのよ!驚いちゃったわ。だけどそれよりも1番の決めてになったのはあなたの霊力ね。」
「私の霊力?」
「そうよ。って私ったらごめんなさい!こんな寒い中長々と話しちゃって!こちらへどうぞ坊ちゃんがお待ちですので玄関へ案内しますね。」
慌てた様子で石畳の上を歩く幸乃さんの後を追い、玄関へと案内してくれた。やっぱり御屋敷はとにかく大きくて、塀を内側から囲うように真っ赤に凛として咲いている椿に雪が覆いかぶさってより一層赤色が際立っていた。
雪で凍った石畳で滑らないように慎重に慎重に歩き進めていく。
玄関は昔ながらのすりガラスの玄関でよく見ると雪のような繊細な模様で出来ていて、この家その物が芸術品のような見た目をしている。
「さぁお上がりください。」
「ありがとうございます。お邪魔します。」
「すみません。失礼します。」
「あちらの奥の居間でお待ちになられてますのでご案内いたしますね。」
外装より、より一層深みのました涅色の廊下。少し薄暗く廊下はかなり長い。奥へ行く程暗闇に包まれてどこまで続いているのか分からないほどだ。外の提灯と同じオレンジ色の光が灯っており、そのせいか廊下の窓に隔ててある障子には外で降っている雪が影で映し出されておりとても幻想的だ。
幸乃さんの後を2人で追うが、坊ちゃんという方が居る居間へ近づくにつれて頭の奥底をドォンドォンと響く感覚が酷くなってくる。
嫌だこの感覚。そう思った時強い痛みと視界が180度回転をした。
「っ、痛い。」
「おい、大丈夫か?」
目眩で真後ろに倒れてしまい、少し後ろを歩いていた彼方が支えてくれたおかげで転けずにすんだ。
「ごめん、平気平気。ありがとう支えてくれて」
「大丈夫か?休ませてもらうか?」
「大丈夫ですか舞梨ちゃん。少しお休みになられますか?」
「いえ、ご心配おかけしてすみません。私は大丈夫です。
氷柱さんを待たせてしまっているので」
「では分かりました。ですがしんどくなられたらすぐにおっしゃって下さいね?」
「はい。ありがとうございます。」
「無理するなよ?」
「うん。ありがとう」
「ん。」
「ではお2人こちらでございます。
坊ちゃん!
折坂さんと明日見さんお見えになられましたよ!」
「入れ。」
またしても脳裏に響く。綺麗な低い声なのにどこか苦痛に感じるのは一体何故なのか。
「失礼致します」
同時に声をかけ、襖に手をかけて少しづつ少しづつゆっくりと開く。
そこにはとても綺麗な綺麗な方が煙管を吹かしている姿があった。まるで絵巻に出てくる……の様な姿に目を奪われた。




