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【十九】左手の印

その後彼方と美味しいものを沢山食べ尽くした。




まず1店舗目はいつも通る商店街の1番人気のお肉屋さん。

じゃがいもがゴロゴロッと形の残った玉ねぎの甘みと濃いめに味付けのされたお肉が最高な衣サクサクのコロッケ。




2店舗目には甘いものを食べに商店街から少し離れた場所にある歴史ある和菓子屋さんへ。

ここでは草餅が目の前で焼いていて仕上げにバターを乗せているのが特徴的。

草餅ならではの風味に焼いてトロトロになったお餅。そこにバターが加わってまろやかかつ少しの塩味が最高の1品。





そして最後の〆に3店舗目へ。ここは肉まん屋さん。

露店で販売されていて地元民にも長く愛されておりいつも長蛇の列が出来ている。

ここの一番人気は角煮豚まん。

でも2番人気の豚まんも譲れない。

悩んだ挙句彼方の意見で半分こすることになり2つ購入。角煮豚まんはトロトロになるまで煮込まれた味のしっかり着いた角煮に薄味の八角などで味付けのされた薄味の肉まんとよく合う。

何個でも食べれちゃいそう。ここの豚まんは先程の角煮豚まんとは違いしっかりと味が着けられていて2種類の味が楽しめるのが特徴的だ。






とこんな感じに。






「はぁ〜!おなかいっぱい!」






「食べ歩きも悪くないな。全部美味しかった。」






「そうね!どれも1番なんて決めれないほど全部美味しくて最高の一日になったわ。お腹いっぱいで電車の揺れで寝ちゃいそうになっちゃった」






「そりゃよかった。

でもお腹いっぱいになって眠たくなるのは赤ちゃんだけだぞ」







「誰が赤ちゃんよ!

でもよかったの?私の分全部買ってくれて。」







「あぁなんだって今日は退院祝いだって言っただろ。

美味しいって聞けただけで十分だよ」







「太っ腹ね彼方。本当に美味しかったし楽しかった。

また食べ歩きしましょ」






「また美味しいお店探しとく」






「ありがとう!楽しみにしてるわ!」





そんな会話を私の最寄り駅から自宅までの道のりでしていた。





「そしたら俺はここまで」





そういい私の自宅の門の前まで送ってくれた。





「いつも遠いのにここまでありがとう」





「いいんだ。また明日朝迎えに来るよ」





「明日もいいの?」





「あぁ。当たり前だ。ひとりじゃ心配だからな。

それじゃあ明日のことお母さん達によろしく伝えといてくれ」





「わかったわ。彼方のお父さんにも明日お願いしますと伝えておいて。」






「ん、伝えとく。それじゃ帰るよ。玄関まで気をつけて帰れよ。コケるなよ」





そう冗談を言いながら手をヒラヒラと振りながら彼方は後ろを向き来た道を戻って行った。





「ありがとうー!ばいばいー!」





私は段々と小さくなる彼方の後ろ姿に大きくばいばいと伝えると向こうで恥ずかしそうに手を振る彼方の姿があった。


なんだかツンツンしてるけどツンツンしきれてない彼方が可愛く思える。行動は素直なのに。性格も素直になればいいのにななんて思いながら私も玄関の扉を開けた。





…………………………………………











「はぁ。なんて明日伝えよう。」



ベッドで横になりながら何回も何回も同じ事を繰り返し考え込む。






私の祖母の家系(母方の女系)はいわゆる【見える】家系で先祖代々拝み屋と呼ばれる仕事をしていた。


その今までの代の中でも私の祖母は三本の指に入る程その力は強く初代が得意としていた鈴を使った除霊を習得し生前妖、霊、人間と種を問わず鈴を使い助けていた。







そんな祖母を私たち一家以外の親戚一同皆嫌っていた。







見える家系だからそこ、代を次ぐために、いかに力の強い子を産めるか、技を習得するかを血が繋がっているにもかかわらず皆、貶し蹴落としあっていたのだ。






そんな中、祖母は何代にもわたって使いこなすことの出来なかった鈴を10代という若さで使いこなした。この出来事がきっかけで私たち一族はは崩れ落ちたのだ。





その鈴とは何度も何度も話していたが本当に習得が難しい。実際何代もいる私達一族でも書物に記載されているものでは、習得していたのは4人だけだった。





前に彼方も言っていたが今現在亡くなった祖母を含むと日本で3人使える者がいる。だが長年に渡り修行をし鈴の全て技を習得していたのは祖母のみでその2人は祖母の弟子だったと知った。





祖母と同じ血を引く私は家系の中でも力が強いと幼い頃から言われ続けていた。そんな私を次の代へ継がせまいと忌み子の様に嫌い私は存在しない物のように親戚には扱われていた。そんな事もありとある事をきっかけに私は自分の力を使わないように、そんなものは最初からなかったと思い続けてみんなか嫌われないよう、標的にされないように見えない人間を演じ続けた。





そんな私とは違い母には力がない。

見える事も感じる事も出来ない。

ただ勘だけは異様に鋭い。





母は力を持って生まれてこなかった自分を心底喜んだと言っていた。代を次ぐことを争わないで済む。一族の人間に妬まれることも無い相手にされることもない。

そして母(祖母)が大変な思いをしてきたからこそ私には同じ事は出来なかったと昔からそう話していたのを覚えている。





力のない母から力のある子は産まれないと言われていた中、産まれた私には祖母と同じような力を持ち産まれてきたのだ。




私が大きくなるにつれて霊や妖に取りつかれることも多くなりその度に祖母に助けてもらっていた。





その事を母は黙ってみる事しか出来ない自分を責めて力を持って産んだ私の事を今でもずっと後悔し申し訳ないと思っている。





代争いに巻き込まれること、生きていく上で見える事の大変さを自分が見えなくても、その家系で産まれ生きてきたからこそ私に同じ思いをさせたくなかったのだと思う。



だから母は自分の口から私に霊の存在も妖のことも何も教えることはなかった。






そんな母を私は嫌っている訳ではない。





私はただ、それだけ見える事から来る問題を産まれてから出来る限り避けてくれていた母にこの腕の事を話すことが辛くて仕方が無いのだ。





祖母が亡くなった今どうするべきなのか自分でも分からない。ただ助けようと動いてくれている彼方達が居るから自分も頑張らないと行けない。この問題から逃げてはいけないのだ。




ベッドで横になり天井に左手を上げで見上げる。

ずっと考え込んでいるが一向に何も答えが出ない事をグルグル永遠とループしてしまう。

明日の事を、そしてその腕の事をお母さんに言わなくてはならない。






明日の朝ちゃんと伝えよう。





そう誓い私は深い眠りについた。

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