【十五】左手の傷と人間ならざるもの
ガラガラと音を立てて病室の扉が開いた。
「明日見さん目が覚めましたか?」
「はい。おかげさまで」
白衣を着た先生と彼方が一緒に病室に入ってくる。
「僕は明日見さんの担当医の澄田です。
倒れる前の記憶はありますか?」
「はい。記憶はしっかりあります。」
思い出すだけでも悪寒がしてトラウマになるほどしっかりと全て覚えていた。
「では、体が痛いところはありますか?」
「強いて言うのであれば身体全てが痛いです…」
お腹を何度も蹴られて話す度にお腹に力が入りウッと声が出そうになるような鈍い痛みと膝が擦れてヒリヒリして更には頭から出血していたこともあり頭がジンジンする。
痛みがコンプリートされてるのでは無いかと思うほど全身のあちこちが痛い。
「あ、でもただ1つよく分からない痛みが…」
「よく分からない痛みですか?詳しく聞かせてください。」
詳しく。そういわれても例えようのない痛み。
「身体の芯がズキズキと痛むんです。
それも一定間隔でもずっとでもなくて。
何がきっかけで傷んでいるかも分からないんです。」
先生も彼方も同じく首を傾げた。
先生は思い当たる節を探っているような今後の事を考えているようなそんな表情をしていたが、彼方はなにか怪訝そうな顔をして手を顎において真剣に考えているようだった。
「そうですか。
では心配ですので1度検査をしましょう。
検査の手配と親御さんに目が覚めたと連絡してきますので少しお待ちください。なにかあればすぐナースコールを」
「わかりました。よろしくお願いします。」
そう言い終わろうとした時ふと思い出す。
「あの先生。」
「どうしましたか?」
「私左手首を強く噛まれて怪我をしていたと思うのですがあの傷は治ったのでしょうか。」
目が覚めてから不思議に思っていた。
あんなにも強く噛まれて出血していたというのに目が覚めてから痛むことも無くただ噛まれた所が赤くアザのようになっているだけだった。
「いえ、治ったもなにも最初から怪我などされていませんでしたよ?」
「え?怪我がなかった?」
尚更理解出来ない。
私もしかして本当は噛まれていなくて幻覚なのか記憶が曖昧になってるだけなのだろうか。
その時彼方が口を開いた
「先生僕も確かに見ました。救急車を待っている時確かに噛まれて出血していた彼女の左手首を」
先生は自身の手に持っていたカルテに目を通す。
「やはりこちらに来られた際の怪我をカルテに記入していますがそのような記載はないですね。」
「そう、ですか。わかりました。」
「では後ほど看護師が案内に来ますので。」
そう言い病室を後に出ていってしまった。
やはり私の記憶違いではなく彼方も見ていたとすれば確実だ。なのになぜ傷が消えてる。カレンダーを見る限り私は3日ほど眠っていたがその間に深かったあの傷が3日で消えるわけなんてない。
もしかしてこれは
「人間の仕業じゃないな。」
「やっぱり」
彼方と私は同じような事を思っていたようだ
以前祖母に聞いた事がある。人間では無い何者かによって傷をつけられた場合必ずこの2パターンにわかれる。
以上に長く完治しない、もしくは酷い傷も数日足らずであっという間に完治するということ。
私の場合は圧倒的後者だ。
「ごめん。舞梨ちゃん。
ちょっと服めくっていいか?」
「え?」
急な問いかけにびっくりしたが真剣な眼差しの彼方に首を横に振ることは出来ない。なにかあるのだと思いこくりと小さく頷く。
彼方は長い指先でゆっくりと私の服をめくる。
そこには私が何度も蹴られた後が痛々しく残っていた。
「やっぱりそうだ」
と真剣な顔をして私の傷を長いまつ毛の切れ長の瞳で凝視している。
なんか照れる。なんて場違いな事を思っている私。
「ただ引っかかる点があるんだ。なぜその噛んだ傷だけが今回異様な速さで治ってるかだ。このお腹の傷は一般的なスピードで治りかけてる。」
「ということは?」
そう私が彼方に問いかける。
近くにあるパイプ椅子に腰掛け顎に手をやり考え込んでいる。
「ということはだな。人間と人間ならざるものが混ざっているということだ。」
「今回そのお腹も他、体にある無数の傷も人間の仕業。だがその噛み跡だけは妖又は霊の仕業だということだな。ないとは思うが神の可能性もある。呪いも視野に入れてもいいかもしれないが」
この世の中には簡単に分けて妖、霊、神様が存在する。それは一般的にみんなが知っているものと同じで、
ただ見える人でも全てが見える訳では無い。
仮に妖は見えても霊は見えない。
又は神が見えても妖、霊は見えないなど人によって見え方感じ方それぞれだ。それも良いものだけでは無い。
神落ちそう呼ばれている神様もいる。妖は魔物、妖魔。霊は悪霊なんて呼びた方がものがこの世には沢山ある。
「ただそのうちのどれかで話は変わってくる。
だが、1番可能性が高いのは…」
「人間ならざるものと契約した人間の仕業という事ね」
「そうだ。今回の1件人間だけに思える事件だが傷の治癒の仕方それにあの時見た噛み跡は普通じゃなかった。赤黒い光が見えていたことから人間そして人間ならざるもの同士の仕業だ。こんなことが出来るのは半妖か何者かと契約したしかないだろう」
「契約だなんて。なんで私が標的に…」
「それにズキズキするって言ってただろう。確かでは無いがかなり前に図書館で保管されていた書物を読んだことがあるが俺の予想があってれば…」
「あってれば?」
「婚約の印だろう。」




