【十三】謎のオトコ~後編~
頼む!無事でいてくれ!!!
あれから10分程走り、商店街の手前にある自販機のゴミ箱に雑に押し込まれた黒色の薄い生地のロングのジャンバーが掘り込まれていた。やけに気になり近づいて取り出す。
広げてよく見ると数箇所光の加減で黒く酸化した血液が着いていた。
「もしかして、舞梨ちゃんの血。」
そうなると、これは犯人のものか。
俺は嫌な予感を払うように急いで舞梨ちゃんの元へと走った
そして商店街の居酒屋に着き、周りを見渡す。居酒屋の横道に猫のキャラクターの書かれた防犯ブザーが落ちていた。これは舞梨ちゃんに持たせていた防犯ブザーで柄が可愛いといつもポケットに入れていた。
「やっぱりここで…」
路地裏へと進む。目の前一面に広がる暗闇。
スマホでライトを付けて目の前に向けた。
そこには横たわった舞梨の姿が。
「舞梨!!舞梨!!大丈夫か!!」
倒れている舞梨ちゃんの肩を抱き抱えて揺さぶる
抱き上げた時に乱れた制服のシャツがめくれてお腹が見えた。
そこには白い肌にどす黒く青紫になった痣が広がっていた。
「おい、マジかよ。酷すぎるだろ。」
力が抜けて地面に着いてる腕を見るとそこには
華奢な白い腕に血で滲んだ噛み跡があった。
「おいおい待てよ、流石に」
言葉が詰まる。
なんでこんなことが女の子に出来るんだ。
噛まれた歯型は大きく腫れ上がり膨れていた。
だが妙にこの歯型が引っかかる。何故だ。
こんなことすることは正常じゃないただそれ以上に引っかかることがあるが今の俺の頭では正常に機能していない。
だが仮に好きな女の子に対してする事なのか。
怒りが段々段々と増していく。
「俺が一緒に帰ってやれなくてごめん。」
痛々しい少し痣に触れると痛そうに顔を顰めた。
それからも何度も揺さぶり呼びかけるが、
目を開けることも返事をすることも無かった。
自分の頬から涙がつーっと流れ落ちていく。
男のくせに泣くなんて情けない。だがどんだけ痛くて怖くて辛かったか。彼女がどんな思いで俺に電話をかけてきていたのが悔しい、悲しい、やるせない感情と舞梨が目を覚まさなかったらそう考えると恐ろしくてたまらない。
すぐ近くに落ちていた舞梨ちゃんの通学バッグからいつもバッグの中に入れていたブランケットを出しボロボロになった制服を隠すように体がこれ以上冷えないように掛けて抱き抱えて救急車を待っていた。
それから少ししてサイレンを鳴らした警察と救急車が来た。
警察の人に事情を説明した。
彼女からかかってきた電話の内容。以前から盗撮、ストーカーされていた事。
その犯人が今回の件を引き起こした人物だと決定づける手紙とよく似た内容と関連ずけるセリフ。近くに血のついたジャンバーが捨てられていたこと全てを話した。
この周辺を巡回していた警官が数名居たが現段階でそれらしき人物、不審者は見当たらなかったとの事だった。
手がかりは例の血の着いたジャンバーだが、俺がここへ来る時持ってきていて舞梨ちゃんを抱き起こした時に地面に置いておいたはずがどこか消えてしまっていた。
一番最初に駆けつけた警官にはそんなものは来た時に落ちていなかったと言われたが確実に捨てられていたのも俺が持ってきていたのも事実だそれなのになぜ。
救急車の中で応急処置をされ行先の病院と連携を持っていた救急隊から行き先が決まったと言われ一緒に舞梨ちゃんを乗せて一緒に病院まで向かった。
病院に着き、お腹を強く蹴られていることと
頭を強く打った可能性もあるとの事で直ぐに精密検査をするために検査室に入っていった。
静かで薄暗い待合室に不気味な機械音が鳴り響く。
少しして奥から自動ドアが開く音がしてこちらに駆けてくる足音が聞こえた。
「彼方!!」
そこには汗だくの父の姿があった
「父さん。」
「舞梨ちゃんは大丈夫なのか…」
「路地裏で倒れているところを見つけて何度も声をかけたけど目もあかなくて返事もなかった。」
「そうか…怪我をしてたのか?」
「あぁ。お腹を強く何度も蹴られたみたいで青紫の痣があった。それに倒れた拍子に頭を強く打ったみたいで血が出てたから今詳しく検査してもらってる。後這いつくばったみたいで膝から出血してたよ」
「悪いな彼方。今日仕事を手伝ってもらったばっかりに。本当に悪かった」
深々と頭を下げる父親の姿を見て胸が痛む。
「いや、父さんは悪くない。誰も悪くないんだよ。
舞梨ちゃんも父さんも。俺が情けなかったんだ。俺を頼ってくれた女の子1人助けられなかった。」
「彼方お前も悪くない。そう自分を責めるな」
そう父さんは言ってくれるが納得は出来ない。
しばらく無言が続いた。
2時間後検査室から舞梨ちゃんを乗せたベッドが出てきた。
俺の代わりに父さんが検査の結果を聞きに別室に向かった。
看護師さんに病室まで案内してもらい、ここで舞梨ちゃんの意識を戻るのを待つだけだと言われた。
ベッドの近くに看護師さんが置いてくれた椅子に腰かける。
ベッドの布団から出た手を握る。
あぁ、冷たい。
今まで何度も並んで歩いていた時話に盛り上がりすぎてお互いの手が何度も当たったことがあったその時いつも彼女の手は暖かくて秋で外は寒いのにいつも触れる度にからかっていた。
そんな彼女の手からは温かさはなく冷たさだけが残っていた。
「ごめん。ごめん。」
情けない。
そのときドアを勢い良く開く音と共に入って来た女性の姿があった。
「舞梨!!!」
青白い顔色の女性は俺を見て動きを止めた。
「あなた、もしかして彼方くん…?」
「はい、折坂彼方です。」
「そっか、あなたが彼方くんか…。
舞梨の母です。舞梨を助けれくれてありがとう。」
舞梨ちゃんのスマホが壊れていたことから彼女の家族の電話番号がわかるものが居なく家族に連絡が行くのが遅くなったのだ。
「そんな。とんでもないです。
僕は舞梨さんを助けられませんでした。」
「事情を知っておきながら1人で帰らせてしまったのは僕なんです。本当にすみませんでした。」
彼方は椅子から立ちあがり舞梨の母に深く頭を下げた。
「そんなことないのよ。彼方くん、あなたが居なかったら舞梨はここにいないかもしれないもの。」
「それに、舞梨から1度聞いてたのよ。
“最近誰かにつけられてて怖い”ってでも毎日楽しそうに学校に行って帰ってくる度に彼方くんの話をしてくれるから。私ももう何ともないんだってそこまで気にしなかったの。だから、私にも非があるの…お願い頭を上げて…。」
顔を上げると窓から夜月に照らされて今にも泣いてしまいそうな顔をして笑顔を向けてくれていた。
その笑顔から読み取れる彼女のお母さんは本当に俺に対して少しの怒りなど無いことに驚いた。
「よし!じゃあ私、夫と先生に話してくるわね。この子の検査結果彼方くんのお父さんが聞いてくれてるんだってね。彼方くん、君とお父さんには本当にご迷惑をかけてしまってごめんなさいね。」
そういって頭を下げて背を向け病室から出ていった。
体から一気に力が抜けてガタンッとパイプ椅子に座り込む。
舞梨ちゃんの穏やかな優しい雰囲気はお母さん譲りなのだろう。彼女はいつも自分を後回しにして自分が犠牲になってでも周りを優先して心配する様な子だ。
はやく目を覚まして彼方と愛らしく名前を呼んで笑顔を見せて欲しいなんて自分勝手に思ってしまう。




