【九】不吉な帰り道
それからすぐ彼方は、持っていたバスケットから美味しそうなサンドウィッチの入ったお弁当籠を取り出してくれた。
「わぁ!サンドウィッチ!!」
「舞梨ちゃんはサンドウィッチ好きなのか?」
「うん!大好き!」
「そうか。なら頑張って作った甲斐があるな。」
「え!?これ彼方が作ったの!?」
「あたりまえだろ。喫茶店屋の息子だぞ。」
あぁ忘れてたそうだった。
確かに喫茶店といえばサンドウィッチか。
彼方は嬉しそうに口元を緩ませながら可愛い花柄の魔法瓶とスプーンを渡してくれた。
「ありがとう。もしかしてこれオニオンスープ?
すごくいいかおり!これも彼方が?」
中庭にある小さな木製の丸テーブルには、
可愛いピンクのチェック柄のナフキンが引いて
その上にサンドウィッチとフルーツサンド。それにオニオンスープまで。すごく美味しそう…!
「それも俺が作った。」
「すごい美味しそう!まさか学校でこのレベルのランチがいただけるなんて思ってもいませんでした。」
彼方に手を合わせた。
「俺を舐めるなよ。さぁさっさと食え。」
「では!手を合わせて。」
「「いただきます!」」
同時にサンドウィッチを取って、ひと口食べる。
だめだこれは頬が落ちてしまう。
パンにはバターとマヨネーズそれにマスタードを混ぜ込まれたソースが塗ってあり、間にはシャキシャキのレタスに旨味の詰まったトマト。それになんと言ってもこの卵がたまらない!白身は少し形が残っていて歯ごたえもいいバターの香りとブラックペッパー。アクセントに入ったピクルスの絶妙なバランス。天才か!
「彼方天才よ。これはお店出せるレベル。いや世界で1位を取れるわ。」
私はあまりの美味しさに語彙力がなくなってしまった。
「俺サンドウィッチが一番の得意料理なんだよな。
想像以上に褒めてくれて嬉しいよ。」
そういい彼方も満足気にサンドウィッチを頬張っていた。
次にオニオンスープを飲む。
いやまたしても天才だ。
「こんなに濃厚なオニオンスープ飲んだことない。それなのにくどくなくて甘みが濃縮されたタマネギとコンソメの風味が最高。」
「ねぇ、彼方。」
「ん?なんだ」
「お嫁に来ない?」
「喜んで」
あれ?怒られると思ったけどあっさりおっけいを貰ってしまった。予想外の反応に呆気にとられている私の手をとりフルーツサンドを渡してくれた。
「あ、そう言えば、今日1時間目サッカーだったでしょ?」
フルーツサンドも頬張る。
なんだかだんだん腹が立ってきたぞ。美味しすぎて。
話してる途中なのでとびっきりのGoodサインをした。
「おぉ、うまいか?一限目はサッカーだったけど、よく知ってるな?」
「美味しすぎるわ。うん、今日英語の授業の時に暇だったからグラウンド見てたら彼方が居たから。それでね、その時、校門から怪しい人がカメラを構えてグラウンドの写真を撮ってたみたいなの」
「怪しい人?あぁ、だから今日教師たちがバタバタしてたんだな。それにしても最近近高校生を襲う事件よく聞くな。」
「ええ、先生たちも大変そうだった。不審者なんて後から何かあってからじゃ遅いものね。早く手を打たないと。」
「舞梨ちゃんも気をつけろよ。
ちっせぇんだから」
「え?なに喧嘩売ってる?」
それからも少し言い合いをしたり彼方の話を聞いたり、昨日美味しいパン屋さんを見つけた話をして彼方の作ってくれたお弁当を全て完食した。
「はぁ~!お腹いっぱい!美味しかった〜!」
「作りすぎたかと思ったけどぺろりと食べたな」
「当たり前じゃない。こんなに美味しいのを残せないわ。」
「あ、そういえば」
お腹を満足気に擦りながら彼方に向き合った。
「ねぇずっと気になってたんだけどなんで私のこと舞梨ちゃんって呼ぶの?」
「だって名前舞梨だろ?」
うっ。イケメンの突然の呼び捨ての破壊力はえぐいな。
当然そのルックスでちゃん付けってのもまた破壊力がやばい。
「そうなんだけど昨日から私の事ちゃん付けで呼んでたからなんだか以外で」
んーっと顎に手をやりながら考え込む彼方。
「考えてみたけど別に深い意味は無いな。
ただ父さんが舞梨ちゃんって呼んでたからふざけて呼んだら定着しただけ?的な?」
「なんだか気になって聞いたのが馬鹿らしくなった」
「なんだよ聞いといてその態度は。
ほらさっさと教室戻るぞ。あと5分しかないからな」
もうそんな時間にいつの間にか片付けられたテーブルを横目に午後の授業を受けるために各々の教室へともどった。
そして午後の授業も終わり、早く帰ろうとしたが英語教師の山本先生に捕まってしまった。朝見た不審者の特徴を改めて説明して欲しいとの事だった。
早く帰りたくて咄嗟に言ってしまったが面倒な事に頭を突っ込んでしまったか。でも私が気づいたことによってなにかが分かるならそれはそれでいい。
小さく頷き山本先生の後へ続いた。
それから1時間ほど経った時先生達から解放された。
外はもうすっかり薄暗くなっていた。
急いで外に出るといつもの下校の人の多さとは真逆で全く生徒が歩いていなかった。
1時間でこんなにも雰囲気が変わるものなのか。
なんて呑気なことを考えていたが冬の寒さのせいで何故か孤独に感じで怖くなる。
今日は彼方のお父さんの喫茶店によって狐の子の様子を見ようと思っていたが、あまりの怖さで足がすくんだ。
ダメだ今日は真っ直ぐ家に帰ろう。
そう思い急ぎ足で帰路に着いた。




