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03.Rumorー少女のカゲー

03のキーワード


・03.Rumor=噂



◆◆◆3


「---さて……」




瑞之江が静かになった教室をゆっくりと見回した。

それから残った面々の顔を眺める。


「これから今校内で起きている陰湿なイタズラについて、

岡崎先輩、葛西先輩、それから柳川先輩に簡単に説明します。

先輩方にこのイタズラについて理解して頂かない限り、

生徒会でこの写真について動くことは不可能です。ですから、きちんと聞いて頂きたい。」



そこで瑞之江は話を句切り、三人の瞳を鋭い眼差しで睨み付けた。

まるで獲物を狙う野獣のように。


「いいですね?」


暗黙の了解…


三人は深く頷いた。


「では、あちらの長机に座ってください。

それと…柳川先輩、先輩はどのような経緯でここに来れたのですか?」


「柳川」と呼ばれた狐顔の少年はビクッと背筋を振るわせると、青い顔をして瑞之江を見つめた。

それから絞り出すようなか細い声でぽつりと呟いた。


「…かっ…かなこを…海南子を助けてほしい!!」


それからキッと顔をあげ、瑞之江の襟元をぐっと掴んだ。


「お願いだっ!海南子を助けてくれ!」


背の高い柳川に首を掴まれ、さすがの瑞之江も唖然とし、

代わりに副会長の長篠(ながしの) 紘治(こうじ)が柳川を諭した。

背が高く、真っ直ぐな黒髪をベリーショートに切り上げた彼は、どこからどう見ても真面目そうな少年だった。

副会長というよりは生徒会長を務めていそうだ。


「柳川先輩、落ち着いてください。

瑞之江を掴んだって俺たちはあなたに何もしてあげられませんよ」


長篠は諭しても尚、瑞之江の襟元をつかみ続ける柳川の手をそっと掴んだ。

柳川はびっくと肩を上げると、降参したようにだらりと手を下ろした。


「何があったんですか?

ゆっくりでいいので、すべて話してください。話を聞けばお役にたてると思います。」


続いて書記の文無月ふなづき綾乃あやのがにこっと笑い、柳川を長机に座らせた。

自分もその隣に腰かけて探るように彼を見つめた。

茶色がかったセミロングの髪を垂らした、おだやな感じの少女だ。

それほど身長は高くないが、人を引きつける独特の雰囲気がある。

彼女の周りはいつも人で溢れていそうだ。


「…たんだ…」


「え?」


唇を血が滲むほど強く噛みしめ、震える拳を机に携えながら、

柳川は圧し殺した声で話し出した。

その瞳は怒りで満ち溢れ何か強い光を宿していた。


「来たんだ…海南子のところに……ワッペンが…」


「ワッペン…?」


綾乃の斜め後ろに立っていた会計の近藤里奈こんどうりなが訝しげに眉をひそめた。

背が高くすらっとした彼女は長めのストレートのよく似合う、大人びた感じの少女だ。

ちらほらと見える筋肉質な手足が彼女の洗練されたスタイルを見事に際立たせている。


里奈は綾乃と顔を見合せ、記憶を手繰りよせるように瞳を閉じた。

二人の顔にはなぜか恐怖が浮かび、凍りついたような顔をしていた。

状況を掴めていない男子陣はきょとんとしながら椅子に座った。


「先輩、それは噂になっている…ナコさん…ですか?」


戸惑いを浮かべた声で綾乃が思いきったように柳川に尋ねた。

柳川は溜め息をつくようにな声で「あぁ…」と頷いた。




◆◆◆4



「ナコさん。って言うのはね、女子の中で流行ってるおまじないみたいなものなの」


瑞之江に促されて里奈と綾乃が話し出した。


「いつから流行りだしたのかは解らないけれど、たぶん女子の七割は知っているはず。

特に高等部、中等部の女子は知らない方が可笑しいと思う。」


里奈は宙に瞳を泳がせ、それから綾乃に軽く目配せをした。綾乃が先を進める。


「ナコさんは豊穣学園の生徒で学校が大好きな女の子なんだって。

でも体が弱くて保健室によく通っていて、

友達やクラスメイト、先生にお世話になってたんだって。

でね、ナコさんはみんなに助けてもらった恩を返すように、

選ばれた年に選ばれた生徒の願いを叶えてくれるんだって。」


「つまりコックリさんみたいなものか…?」


瑞之江が腕を組みながら言った。



「…うーん…どうなんだろう?

なんかコックリさんって言うより女子の神様…みたいに言ってたけど。」


「神様?」


「うん。誰に聞いてもそうゆうの。『願いを叶えてくれる、神様なんだよ』って。

あと、ナコさんの生死は解らないみたい」


「ん?」


「話さないの、誰も。ナコさんが生存者なのか、死者なのか。

ほら、こうゆう話には必ず『事故死した』とか『学校を恨んでいた』とか、死を表す言葉がつくでしょう?

ナコさんにはないのそうゆうお決まりの文句が。

最初はあたしがたまたま聞いてないだけかなって思ったんだけど、違うみたい。

誰も話さないから。」


里奈も頷いた。


「先輩が『それは禁句だよ?』って言ってた」


瑞之江が頭を捻る。

長篠は考え込み、柳川は苦々しそうに顔を歪め、岡崎と葛西は面白そうに聞いていた。


「つまりナコさんは…生きていて俺らと同じように学園で生活しているかもしれない…?」


驚いた顔で長篠が言った。


「うん。コージの言う通り。誰かが…誰か生徒が何か目的を持ってやっているのかも。」


「生徒以外。って可能性もあるわ」


里奈が呟いた。


「一部ではナコさんは『先生で…』と話されているらしいから。」


全員が唖然とした。

綾乃も初めて聞くようで、驚いていた。


特定することのできない霧のように儚く、闇のように深い人間がいる…

学園で何か工作をしている可能性がある…恐怖を与えるには十分な種だった。


「特定不可能…ってやつか。それはちょっとヤバイかもな」


瑞之江が静かに沈黙を破った。


「ナコさんが何をしてるか知らねぇが広まるのはヤバイ。

集団の中じゃなにが起こるか解らねぇし、悪意を持った人間がやっていることなら、何か危険に巻き込まれる可能性もある。」


「どうするの?」


綾乃が不安げに呟いた。


「調べるさ。学校で起きているイタズラと絡めてな」


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