02.Keyー告げられるカギー
02のキーワード
・Key=鍵
『--ねぇ…知ってる?--』
体育館の裏の裏、生徒に「抜け道」と呼ばれている通り道で私はA子に呼び止められた。
「え?」
部活の休憩時間に、コンビニに行こうと思っていたときのことだった。
「ねぇ…知ってる?」
A子はにこにこしながら唇に人差し指を添えた。
その姿は子供がそっと秘密を明かすような、無邪気なものだった。
「何を?」
私が問いかけると、
微かに赤いマニキュアを付けた指が乳白色の肌から離れ私の胸を指差した。
「…ココロの願い…叶えるおまじない」
「…え?」
「ココロに秘めた願いが叶うの。秘密のおまじないなんだよ」
ふふとA子は笑って、愉しそうに話し出した。
「あのね、バレー部の先輩から聞いたんだけどね、
豊穣学園にはナコさんっていう女の子の話があるんだって。
カミサマ…みたいなものなのかなぁ。
でね、そのナコさんは選ばれた年に選ばれた生徒の願いを叶えてくれるんだって。
それで今年がその選ばれた年なんだって。ナコさんに願いを叶えてもらえるの。」
ここまで話してA子は面白いでしょ?と言いながら軽く笑った。
ちょっとしたネタとして話しているようだった。
きっと私がこのようなおまじない話が好きだから、話しに来たのだろう。
「それで?」
「うん。ナコさんに願いを叶えてもらうには条件が必要らしいの。
まずはねナコさんからコウショウを受け取らないといけないの。」
-コウショウ…?-
「コウショウってこれ?」
私が制服の胸元を指差すとA子はこくんと頷いた。
「うん、それだよ。
でもナコさんの学校の校章のワッペンを受け取らないといけないんだって。
それは誰にでもくれるわけじゃなくて、選ばれた生徒だけに渡されるんだって。
つまりワッペンが選ばれた証拠なの。」
ワッペンが
…選ばれた証拠…
信じられないけど、ワッペンが欲しいかも。
願い…叶えたい…
「あ、あと約束が6つあるの。」
「約束?」
A子はまたこくんと頷いて、声を落とした。
そして詠うように言葉を紡ぎだした。
「ーーひとつ 見せてはならぬ 知らぬ者には
ふたつ 告げてはならぬ 得たことを
みっつ 肩身離さず 持ち続けよ
よっつ 8日の子の刻 願いを込めて封をとぢよ
いつつ 9日の馬の刻 選ばれしものに封をとぢてそっとわたせ
むっつ そなたが選びし者に 儀式後 話を告げよ」
それは「いろはうた」のような謎めいたものだったが、
なんとなく意味を理解することができた。
「つまりワッペンを手に入れたのね?」
A子は照れながら頷き「私はあなたを選んだのよ」と言った。
「あなたも選ばれるかもしれない。そしたら叶えてね、ココロの願い」
笑顔でそう言うと体育館にゆっくりと戻って行った。
まるで重要な役目を果たしたような晴れ晴れしい姿で。
--ナコさんねぇ…--
本当にあるのだろうか?
そんな可笑しなこと。
もしも……
もしもあるとしたら…
私は……
「----ごめん!」
「え?」
体育館に戻ったはずのA子が焦った顔をして、走って戻って来た。
「ごめん…わす…れてた…」
彼女にしては珍しく荒い呼吸をしていて、ぜぇぜぇ言いながら私を見つめた。
「ナコさん…には…もうひとつ話があって…約束…を守らなかった人には・・・
ナコさんの征伐が下るんだって…命を…持ってかれちゃう…らしいよ・・・?」
-----イノチヲモッテカレル・・・-----
「…それって…」
私の体が小刻みに震える。手に微かに冷たい汗をかいていた。
「そう……死ぬ…ってこと」
息を整えたA子が冷めた瞳をして呟いた。