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第五章・崩壊への序章

 達也は、大けがをした数日後には元通り元気になっていた。しかし、達也はこの日から何かが少しずつ変わってきているように思えた。その変化が何なのかわからず、何か違和感のようなものを感じていたが、どうすることもできず少し悶々とした気持ちに達也はなっていた。それでもいつもの日常が戻ったと信じて毎日を楽しく暮らしていた。

 季節が巡り秋になった。達也たちの同級生にして仲間の一人の行為で、山仲辰子も含めた、十数人の共通の親友たちとともに、山へ栗拾いに行くことになった。

 うっそうと茂る高い木々や草が周囲に立ち並び、獣道並みに細い山道を歩きながら、いつもの達也の言葉が出てきた。

「和也気をつけろよ、そこ、石が出っ張ってるからな」

 それに対して和也は、一回頷いてから達也に言った。

「大丈夫だよ兄ちゃん」

――またいつもの光景だ。

 達也だけでなく、他の仲間たちもそう思ったことだろう。しかし、達也はまたも違和感を抱いていた。しかし、違和感の正体がわからなかったので何も言わなかった。

 達也たちはそれぞれ二人一組で栗を拾いに散らばった。達也と和也は、当然一緒に行動することにした。


 初めの数分は、特に何もなく普通に栗拾いをしていた。和也がかごを持ち、達也が栗を拾ってかごの中に入れていった。達也が茂みの中に入って行くと、突然足元から地面がなくなった。悪夢と同じように落下していこうとする自分の体を、必死で耐えてバランスを保とうとするが、うまくいかなかった。かかとにあった唯一の小さな地面が崩れて達也の体が落下した。その時、和也の手が達也の腕をつかんだ。

――駄目だ、和也手を放せ

 言葉に出すよりも先に二人は落下していった。達也は、空中でとっさに和也をかばおうとしたが、時すでに遅く、和也を下敷きに穴の下へと落ちていった。

 和也ごと落ちて、衝撃で転んで地面に倒れこんだ。地面が冷たかった。地下水が少しはっていたようで、水中にはごつごつとした石が転がっているようだった。周囲はそれほど広くはないようだが、達也と和也二人が入っても余裕のある場所だった。古井戸なのかどうかを気にするよりも先に、達也はすぐに立ち上がり和也の元へと向かおうとした。少し腕と背中が痛かったが、気にしていられなかった。早く和也のそばに行って無事を確かめたかった。立ち上がって歩き出そうとしたその時、和也がうめいてつぶやいた。

「痛いよぉーにいちゃーん」

 一瞬にして達也の呼吸が止まった。足が震えだした。立っていられなくなってその場で座り込んだ。呼吸は荒くなり、まるで過呼吸のようになった、今度は体中が震えだし、目を大きく見開き恐怖の表情で和也を見た。

「痛いよぉーにいちゃーん」

 二度目の和也の言葉を聞いて、達也は叫んだ。

「や、やめろ、やめろ、やめてくれ」

 達也の頭の中には、過去の忌まわしき記憶がよみがえっていた。それは、自分の罪であり罰。決して避けられない、忘れてはいけない過去の記憶。次第に達也は和也から遠ざかるように座ったまま後退していった。しかし、すぐに行き止まりになった。土壁の冷たい感触を、背中に抱きながら、達也は和也を凝視し、叫び続けていた。

「や、やめろ、やめろ、やめてくれ」

 何回目かの叫びの時、突然別の声が聞こえてきた。

「達也しっかりしろよ、寝ぼけてんじゃねぇ、これは悪夢じゃないんだ、しっかりしろよ、和也を守るんだろ?お前がそんなんでどうすんだよ」

 広田だった。いつの間にか広田が達也のそばに来ていた。達也には和也以外の物が見えていなかった。広田が達也の胸ぐらをつかみ立ち上がらせて、怒鳴ってきたのだった。広田は、つかみかかった手を思いっきり握りしめ、達也の顔面めがけて殴り倒した。

「いい加減にしろよっ」

 達也が殴られた反動で壁にぶつかり、激しい水しぶきの音とともに地面に倒れ込んだ。達也は倒れたまま起きなかった。ただうなだれて顔を下に向けて黙っていた。

「お前が和也の事を気にするのはわかるけど、今はそれを気にしてるときじゃねぇだろ」

 広田のその言葉が達也の暗く沈んだ心を貫いた。

――そうだ、今は自分の事よりも、和也のけがを気にしないと。

 達也はそう思ってゆっくりと立ち上がり、和也のそばに行って介抱している広田の元へと歩いて行った。

――和也、ごめんな。

 そう心の中でつぶやいて。


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