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第二章・きっかけ

 達也たちが自転車で向かったのは、家から十五分ほど走った先にある彼らの通う高校。夏休みとはいえ、ラグビー部に所属する彼らには休みなどなかった。

 開校五十年ほどたっている古い校舎裏にある、少し手狭な感じのグラウンドには、もう何人かの部員仲間達が集まって、それぞれにトレーニングしていた。ラグビー部の部員全員既に来ているようで、明らかに遅刻のようだが、それでも達也は慌てていなかった。さすがに和也は少し焦っていたようだが、達也のペースに巻き込まれていた。

 達也は昔からラグビーが好きだった。だから真っ先にラグビー部のあるこの高校に入ったのだが、まさか和也まで入ってくるとは思わなかったらしく困っていた。いくら「やめたほうがいい、部活に入らないほうがいい」と言っても和也は聞かなかった。達也はすぐにおれて和也も入部することを許可したが、ことあるごとに和也を守るため、達也の生傷が増えた原因でもあった。一年が過ぎて、二年目の夏を迎えた最近は、生傷のできる確率が減ったのだが、周りはほっとしている事だろうと達也は思った。


 急ぎ自転車置き場に自転車を置き、グラウンドの片隅にある部室へ向かっていると、部室からちょうど、強面な同じ部員で同級生の、広田という少年が出てきて二人に怒鳴ってきた。広田とは、幼い頃からのつきあいで大親友ともいえる関係だ。ジャージ姿でもわかるぐらい、筋肉の張りが目立つ怪力の持ち主だ。

「このブラコン兄弟、遅いぞっ!」

 ブラコンとは、ブラザーコンプレックスの略で、広田は二人のことをそう呼ぶことが多い。最近では他の友人達も呼ぶようになっていた。達也も和也も微妙に嫌がっているが、広田たちはお構いなしで二人をそう呼んでいた。

「悪い悪い、待たせたな」

「おはよう、遅れてごめんなさい」

 二人ののんきな口調に広田は呆れてしまったようだ。肩をすくめて首を横にふり、話しかけた。

「しょうがねぇなぁ全く。早く着替えてこいよ」

「へいへい、りょーかい」

 達也は、少しめんどくさそうに答えて部室へと向かった。後ろで広田のため息が聞こえたが、気にしなかった。


 この日の最初の練習は、川沿いの土手でのジョギングからであった。その土手はサイクリングロードという、川の土手を利用した、歩行者・自転車専用道路となっていた。

 サイクリングロードで、監督を先頭にして数十人の部員達と共にジョギングを開始して早々に、達也は和也のことが心配で、ついつい注意を促してしまった。

「和也、あんまり右側に行くなよ、河原に落ちるからな」

「うん、兄ちゃんありがとう」

 和也が笑顔でそう答えた後ろで、広田が達也に言ってきた。

「達也さぁ、ちょっと心配しすぎじゃねぇの? もう高校生なんだから、和也だってそれぐらいわかるだろ」

「まぁそうだけど、」

 達也が広田を伴って、和也よりも少し後ろへ遠ざかり、小声で話を続けた。

「前にも言ったけど、俺はあの日誓ったんだ、あいつを、和也を守るって、何が何でも」

「達也お前まだ、あのことを……」

 広田が何かを言おうとしたとき、目の前の和也が首を振って辺りを見渡しだした。達也は和也が自分を探していると思い、広田の話を遮り和也に呼びかけた。

「俺なら後ろだ」

 それを聞いて和也が走りながら満面の笑みで後ろを振り返った。そして何かを話そうとしたそのとき、バランスをくずした。

 達也はそれに気づいて和也に全速力で走り寄るも、和也は土手の坂を転がりそうになった。まにあわないかと思われたが、ギリギリのところで達也がまにあい、和也の手を引っ張って土手の方向へと引き寄せて助けた。

 だが今度は達也がバランスをくずして、土手から河原へ向けて横向けに坂を転がり落ちた。本当に一瞬の出来事だった。和也の、

「にいちゃーん!」

 という大きくて悲痛な叫び声が、転がり落ちた達也の脳裏に響いた。

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