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第二十章・双子の未来

 朝がきた。広田と中谷一家は、リビングに布団をひいて、入院用のパジャマを各自借りて寝た。両親は、山仲夫婦の寝間着の替えを借りたが、とても質素な普通のパジャマであることに、全員が少しだけ驚いていた。

 そして、まだ日が昇り出す直前、少し薄暗い時間帯に、達也は目を覚ました。またいつもの悪夢を見てしまい、思わず目を覚ましたのだった。

 周囲を見ると、端のほうでうずくまっている両親と違い、広田と和義は適当な方向に体を向け、少しいびきをかいて寝ていた。床暖房がきいているため暖かいが、へたすると風邪をひきそうだった。というか、そもそも床暖房があることに今更ながら達也は驚いていた。

 和也が寝ているはずの、自分の隣の布団を見たが、そこに和也はいなかった。布団が綺麗にたたまれていて、端に寄せられているだけで、和也の姿がなかった。

 急に寂しいのと心配なのとで達也はすぐに起き上がり、台所まで探しに行ってみた。しかし、どこにもいなかった。すぐにリビングから廊下に出た。さすがに山仲親子の寝室にはいないだろうと思っていると、急にヒンヤリとした冷たい空気の流れを感じた。ふとバルコニーの方角を見ると、バルコニーに出る扉が少し開いていた。

――和也?

 達也は急いでバルコニーへと向かった。少しだけ開いていた扉を引いて、バルコニーを見ると、昨日達也がしていたような感じで、和也が立っていた。

「和也」

 そっと声をかけると、和也が大げさに飛び跳ねて振り返り、扉のそばに立つ達也を凝視した。

「なんだ、兄さんか」

「どうしたんだ?」

 近づきながら、先ほどの大げさな驚き方を聞いた。すると、和也はうつむいて話した。

「てっきり父さんかと思って。兄さん、少し声が父さんに似てきたんだね」

「あんまり意識したことないんだけどな」

「ごめん気のせいかも……」

 達也は、和也が妙におかしいことが気になった。

「驚かしたみたいだけど、何かあったのか?」

 だが、和也は再び外の方向を見てからつぶやいた。

「気にしなくていいよ、ちょっと疲れただけだと思うから」

 達也は、なんとなく和也が嘘をついている気がしていた。達也は、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「もしかしてだけど、俺たち、父さんにも暴行されてたんじゃないのか」

 するとすぐに和也が振り返って早口でまくし立てた。

「父さんはめったに殴ってきてなかったよ。むしろ母さんが殴られてた」

「それ見てまた泣いてたよな?」

 和也の表情がみるみる変わっていった。驚きと恐怖とが入り交じったように、目を大きく開けて、口をあんぐりとさせて。達也は和也をまっすぐ見つめていた。和也が怯えるように身体を小さくさせていた。

 つばを少し飲み込んでから和也が聞いてきた。

「記憶、あるの?」

「正直言うと、あんまり記憶に残ってない。けど時々夢の中で鮮明に出てきてたことがあった。怖い顔した男性に殴られたり、その男性が鬼のような形相の、女の人を殴ったり蹴飛ばしてた。この二人が父さんと母さんであることは、何年か前に気づいた。そのたびに甲高い泣き声が聞こえてた。この泣き声って、やっぱり和也だったんだな?」

 和也がうつむいて、今度は静かにゆっくりと話しだした。

「ごめん、兄さんにも黙っておこうと思ったんだ。ちょうど父さんも忘れてるようだし、せっかくうまくいってきてるのに、またおかしくなるんじゃないかと思って」

「和也……」

「怖いんだ、とっても。たぶん、あの人と二人っきりにはなれないと思う。母さんに対しても本当は、どうしていいかわからないんだ」

 達也は、そっと和也の横に立ち、和也を見つめて優しくゆっくりと語りかけた。

「今日俺退院するから、そうしたらまずは広田の家に泊めてもらおうと思うんだ」

 和也は思わず達也の顔を凝視した。達也はそんな和也から少し視線をはずすように、外を見ながら話を続けた。

「もちろん和也も一緒にな。昨日広田とそんな話をしてたんだ」

「けど、今広田君の家は、」

「ああ、わかってる。だから、もしかすると無理かもしれない。けど、俺もお前も少しの間、あの家から離れた方がいいと思うんだ。そうだろ?」

 そう言って和也を見ると、和也は視線を落とした。

「けど兄さん、それは、」

「和也の言いたいこともわかる。けど、俺は俺のためにと言うよりも、和也のためにも家を出た方がいいと思ったんだ」

 和也がまた達也を見た。達也はいつにもまして厳しい顔つきで、真剣に見つめた。

「きっと父さん達だって正直どうしていいかわからないと思うし、それに今の話を聞いてなおさら思ったんだ。どのくらい長くなるかはわからないけど、今はひとまず離れた方がいいってな」

「兄さん」

 和也がつぶやいてから、数分の間があった。達也は和也の率直な意見を聞きたくて待っていた。和也は、視線を少し落として語り出した。

「僕はもしかすると、兄さん達に迷惑をかけることになるかもしれない」

「何を言ってるんだ和也?」

「昨日兄さんがベランダへ移動してすぐの頃に、山仲医師から『もう一度ちゃんと検査をした方がいい』って聞いたんだ。先月のあの落下から一ヶ月ごとに検査をしてもらう事になってたんだけど、初回の検査でいきなり気になるモノが見えたって」

「大昔の腫瘍みたいなモノは完全に取り除いたはずだろ?」

「あの頃よりも検査の技術が良くなってるから、当時わからなかったモノが見えたんじゃないかと思う」

「そんなの、お前の勝手な想像じゃないかっ」

 いつの間にか声が大きくなり、語気が荒くなってきていることに達也は気づき、落ち着こうと胸を手で押さえて軽く深呼吸した。

「そうかもしれない。けど、あれからよく頭痛がするんだ。耳鳴りもする。時々しびれたように体が言うことを聞かないこともあった。だから、僕は、長くないと思う」

「バカなこと言うな。死なないって昨日言ったじゃないか」

 思わず達也は叫んでしまった。誰かが聞いていたらまた大騒ぎになるかもしれないほどに。だが、そんなことを気にしている余裕など当然なかった。困惑している達也に、和也が満面の笑みで顔をあげ言い放った。

「大丈夫だよ、そうそうすぐに死んだりしない。ただ、もしかするとそういうこととは違った形で、迷惑をかけてしまうかもしれない。僕が不安なのはそこだけだよ。それに、今日両親と一緒に山仲先生に詳しく話を聞いて、それから後日大学病院のもっといい設備で診てもらうから、そこは心配しないでよ」

 達也は、思わず和也を抱きしめた。そして少し涙声になりながら言った。

「何があっても俺が守ってやるから、絶対もう離れないから、後のことは気にしなくていい」

 そこまで言ってから抱きしめるのをやめて、和也の顔をしっかりと見つめて言った。

「だから、後悔しない生き方をしょう。思いっきり、飽きることなく生きよう」

「今回は嘘じゃないよね」

 達也が和也に対して嘘をつくときは、ずっと視線をはずさず話すことを和也は気づいていたようだ。

「ああ、嘘じゃない。もう、嘘なんかつかない。もう、後悔したくないから」

「うん、僕もだよ」

 二人していつまでも見つめあっていた。少しして探しに来た広田と和義にからかわれるまで。

「ブラコン通り越して、そんな関係にまでなったのか?」

「兄貴達さすがにそれはやめて!」

「違うわっ、あほぅ!」

 達也の怒声の横で、和也はずっとほくそ笑んでいた。

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