第七章/chapter1 求道
『そんなの、本人がどうしたいのかが一番重要だろ。お前やその保護者がどう思おうがよ、その子が望むならそれを叶えてやればいい。人と人の絆を結ぶものなんて、まずはそこからだろ?』
あっけらかんとしたその意見に、感嘆の息が漏れる。公衆電話の外気に蒸される中、進次は唯一無二の親友の言葉を噛み締めていた。
やることなすこと、身が入らない。進次は雨が降りしきる縁側に腰掛けながら、しとしとと大地を濡らしていく空の涙を眺めていた。
まるで地球が嘆いているかのような錯覚。進次はこの両手に届くところにいるはずの人々を救えない、そんなもどかしさに打ちひしがれていた。
(だめだな……僕。目の前で苦しんでるはずの人達すら助けられないなんて)
考えれば考えるほどわからなくなる。大海と鈴奈を、宗崎の一族の呪縛から解放する方法。そも、彼女達がそれを望んでいるのか。実は進次がこうして悶々としているのは、ただの杞憂にすぎないのか。彼女達の笑顔を、幸せを、どうすれば取り戻すことができるのか。
(お道化て、流して、見ない振りをして。でも、きっとそれじゃ何も変わらない。……ひどい話をすれば、鈴奈ちゃんは一生をこの孤独な神社で終えることになってしまう。それはきっと、違う)
遥かな太古。神々の母であり、この大地の創世のために子ども達に裏切られた母を思う。
どれほど絶望しただろう。この世界に生きとしいける同じ命だったというのに、それを差し出せと刃を向けられたことは。
どれほど厭だっただろう。自分が生きるためとはいえ、新たに産み出した子ども達を、自分の子ども達と相争わせるのは。
どれほど、孤独だっただろう。この世界の残酷さに殺され、美しさを見失っていった、その生涯は。
「……………一人で考えるのは、無理があるかな」
答えを出せない情けなさに唇を噛みながら、縁側を立つ。こんなときにいつも彼を頼ってしまうのが情けない。
身支度を整え、宗崎家を発つ。大海に悟られないように、息を殺して。話が話だ。大海に、まして鈴奈に聞かれるわけにはいかない。そして生憎、進次は携帯電話、スマートフォンは持っていない。時々自分のアナクロさを不便に思う。
傘を広げて目指すのは、駅の電話ボックス。もどかしく胸に渦巻く感情を聞いてもらうのはいつだって彼だった。
神山焔。現在の同居人で、職場の上司で、一番の親友だ。