第五章/chapter7 大いなる母の記憶 人の残滓
---滅ビヨ、死ニ奉レ、我ラガ生ケル礎トシテ!---
---死ネ---
---寄越セ---
---死ネ---
---繁栄ノ為---
---死ネ---
---其ノ血肉---
---死ネ!---
---栄光ノ為---
---死ネ!!---
---禍タル母胎---
---死ネ!!!---
---モウ既ニ---
---死ネ!!!!---
---汝ハ贄---
---死ネ!!!!!---
---腐乱シ地ニ還ル様ニ---
---死ネ!!!!!!---
星産ミノ奇跡ハ最早要ラヌ、其ノ血ヲ海ニ、其ノ肉ヲ地ニ、其ノ胎を天蓋ニ
我等コソ!我等コソ!!我等コソ!!!コノ星ハ我等ニコソ与エタモウテ眠ルガイイ!!!!
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---目を開いても、そこは皮革の帳に包まれた闇の世界。隙間から微かに、光苔の冷光が差しながら、光に弱い鈴奈の瞳を苛む。
(今のは………。また、貴方の夢なんだね……)
前後不覚ながらも、この石室にも慣れたもの。大海の用意した陽光に感光した薫りの布団をはだけ、そっと眼帯を外す。そこから鈴奈の小さな掌に流れ落ちる、生暖かくて、しかし簡単に冷たくなってしまう一滴。
この夢を見ること自体は珍しくない。彼方の過去に執り行われた、最古の親殺し。
ティアマト神、並びにその伴侶であるアプスー神は、よりにもよって自らが産み落とした神の軍勢に叛旗を翻され、殺され、その肢体を天地創造のために裂かれたのだという。
「……………っ。どうして……っ」
---この夢を見るのは珍しくないが。鈴奈がその身体を抱きながら、嗚咽に震え、寒さに震え、やがて来るその時への恐怖に震える。いつもこうだ。
元よりこの身体は人の身。例えティアマトの、レヴィアタンの、ヴリトラの魂を宿していようと、あんな、神々による蹂躙の記憶に、その膨大すぎる熱量に耐えられるはずもない。
告白しよう。私は、ティアマトでもない、レヴィアタンでもない、ヴリトラでもない、宗崎鈴奈の魂は、恐怖に塗れている、と。
遥かな過去、この身体に突き立てられた刃の鋭い重さも、肉と血を、全ての源である子宮と卵巣を身勝手に操られ切り裂かれた痛みも、「お前はいらない」と無遠慮に吐き捨てられた合唱も、全部。
鈴奈が女だからこそわかるのだろうか。それら全てを、今度は、ただの人の身であるはずの私が味わうのだろうか、と恐怖せずにはいられない。
鈴奈の慟哭は止まない。唯一人、救いを求めたい人は、既にこの世にいないのだから、止めどない。
「助けて………譲おじさん………っ」