閉店処分
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
高嶋市からA・Tオートサービスのキャンター改を数時間走らせ着いた田舎町。
「祖父の店を処分するんです。」と青年はシャッターを開けた。
静まり返った店舗に目当てのバイクが在った。
ホンダスーパーカブMD50とMD70。郵政カブと呼ばれる働くカブの
代表であり、ある意味『究極のカブ』とも呼ばれているらしい。
祖父が亡くなり、誰も店を継がないので処分を決めたそうだ。
「工具とか必要なものが在ったら持って行ってもらえると助かります。」
結局、郵政カブ以外にカブ系のエンジンを積んだミニバイクが数台。
工具と部品を段ボール数箱。工具を少々引き取ることになった。
「こんなに貰って良いんですか?」現金の入った封筒を見て青年は驚いたが、
大島にとってはそれが驚きだった。ジャンク・不明で段ボール箱に入っているが
見る者が見れば宝の山。部品商で買うよりはるかに安い値段だったからだ。
建物は解体されてコンビニが建つらしい。
青年に礼を言い、一抹の寂しさを感じながら大島たちは帰路についた。
途中に積み荷の点検を兼ねた休憩をはさみながら走り続ける。
閉店する店を見たからだろうか。話題はどうしても店の今後になる。
「俺のところは息子が継ぐけど、お前はどうすんのよ?」
昔から大島の事を知る平井は大島の事が心配で仕方が無い。
心配する平井の気持ちを知ってか知らずか大島は気楽な様子で答える。
「独身やしな。もう嫁さんを貰うのは諦めたわ。大島家は俺で終わり」
「お前で終わらせるのは勿体のうないか?家とか田はどうするんや?
店も終戦直後から続いてるのに、勿体ないわ」
「形有る物はいつか崩れる。命ある物はいつか滅ぶ。それが運命」
「でもな、『人生はジャンク箱。開けて観なければ解らない』って聞いた事無いか?」
「それを言うなら『チョコレート箱』やがな?誰やそんなこと言うたのは」
平井がニカリと笑って「俺や」と言う。
大島も「平井さんかいな。そら知らんわ」と笑う。
おっさんの珍道中。2人で運転を交代しながら数時間。やっとの事で安曇河に着いた。
トラックから郵便カブと部品を降ろして一息つく。
2人とも疲労は隠せない。もう若くない事を痛感していた。
「カブは息子が欲しがってるから1台貰う。郵便カブを1台直しといてくれ。」
「こんど肉でも奢るわ」
「ビールもな」と約束して平井は帰っていった。
降ろしたバイクを倉庫に整頓した途端、眠気が襲ってきた。
シャワーだけ浴びて寝る事にした。
こんな時、結婚していたらどうなるのだろう・・・考えようとした途端、まぶたが落ちた。
A・Tオートサービス
安曇河にある自動車店。バイクはたまに扱う程度。詳しくは設定集を参照。




