葛城・スポーツマフラーを欲しがる
フィクションです。登場する人物・団体等は架空のものです。
実在する人物・団体等とは無関係です。
今日も愛車のカブ70改90は絶好調。不満が無いと言えば不満は無い。
「リトルカブに付いてたマフラー。スポーツマフラーだったよね・・・。」
葛城は磯部に嫉妬していた。大島は
「純正が一番良いからウチは純正流用チューンで。」
なんて言っていた。なのにリトルカブに付いていたのはJ製の
スポーツマフラー。マニアが求める逸品だ。元値が高価な為、
程度がイマイチの中古でも葛城には手の出ない価格で取引されている。
「やっぱり私が女らしくないからかな・・・。」
大島のおじさんだって男だ。色っぽい女性には弱いに違いない。
張り切ってサービスしたのだろう。
自分が女らしいか否かは一旦置いておくことにして、
カブのマフラーは気になる。純正マフラーは静かだが物足りない。
「仕事のあとで調べてみようかな・・・。」
今日も国道161は流れが速い。葛城は気を引き締めて仕事へ向かった。
仕事を終えて携帯を見ると大島からメールが入っていた。
『磯部さんが連絡を取りたいそうです。お友達になりたいのかな?
良かったらメールしてあげてください。アドレスは・・・です。』
そうだ。女性らしくなりたいなら、女性らしい人に聞けばよい。
友達になればメイクや服装の事も聞きやすい。
『わかりました。連絡しておきます。』・・・返信。
大島からのメールに有ったアドレスをアドレス帳へ追加して
『大島のおじさんから連絡受けました。よろしくお願いします。』
「送信っと。」
携帯を運転モードへ切り替えた葛城はカブのエンジンをかけた。
静かだがもう少し刺激が欲しい。
スーパーカブのスポーツマフラーは数多く出ている。
ところがそれはカブ50の物が殆どだった。
「これも生産終了。こちらは在庫切れ。これは値段が高すぎる・・・」
寝る前に少しだけ調べてみようかと開いたノートパソコン。
画面を見ていても溜め息しか出ない。
カブのスポーツマフラーは沢山あるけど殆どが燃料噴射式となった最終型の物。
もしくはキャブレター時代の50㏄の物ばかり。
キャブレター時代のカブ90の物は少ない。
50㏄用の物も付けて付かないはずは無いのだが、
排気量が1.8倍となっている自身のカブに付ければ・・・
「白バイ乗りが爆音マフラーはマズイよね。」
よく解らないが大島のおじさんの方が詳しそうだ。
何か知ってるかもしれないし、もしかすると在庫で持っているかも。
そんな事を思いながら葛城は眠りに就いた。
翌日
閉店間近であろう大島サイクルへ寄ると話し声が聞こえた。
「もうすこしパンチが欲しいのよね・・・」
「でも、その条件やと限られますよ。」
「こんばんは。何かあったんですか?」
眉間に皺を寄せて話している2人に声をかける。
リトルカブの納車らしいが、磯部さんは何やら不満が在るらしい。
「ゼファーと比べちゃ駄目かも知れないけど、静かすぎて。」
「これでも社外マフラーなんですけどね。」
「センタースタンドも使いたいし、うるさいと職場に乗って行けないし。」
「JMCAの政府承認でセンタースタンドが使える。それでいて90のエンジン対応。
R社のマフラーかなぁ・・・在庫で在りますけど、3万円以上しますよ。」
「交換して乗って帰れますか?」
「じゃあ、コーヒーを淹れるで飲んで待っていてください。
葛城さんはココアの方が良いかな?」
丁度良い所へ来たようだ。
「じゃあ、そのマフラーを私のカブに付けてくださいっ!」
JMCAじゃないから葛城さんには勧めなかったと言う大島を
何とか説得してマフラーは葛城の物となった。
「よっしゃ。ついでや。」と大島は腕まくりをして作業に取り掛かる。
大島の提示した値段は葛城の手持ちで足りる様な金額だった。
磯部さんとメイクやファッション。色々な事を話しているうちに
マフラーの交換作業は進んで行った。
男が多い職場で働く葛城にとって女性とのトークは新鮮で楽しかった。
葛城は友人が出来た事を喜んでいた。だが、磯部は違ったようだ・・・。
磯部の少し赤い頬は流行のメイクと思っていた葛城だったが、
それが間違いだと知るのはもう少し先の話である。
音量測定をするまでも無く、誰も気にしない程度の排気音でした。
「マフラーの中が腐ってるんやろう。古いカブやからな。」
と、誰も気にしなかったらしい。




