恋する女とリトルカブ
「じゃあ、私はこれで。また何処かでお会いしましょうね。」
葛城さんは帰った。
「トイレに行ってる間の店番をお願いしていたんですよ。」
待たせてしまった。リトルカブの説明をしないと。
でも、彼女はリトルカブより気になる事が有るみたいだ。
「あの・・・葛城さんってお付き合いしている人は居るんですか?」
なるほど。彼氏を紹介してとでも言われたかな?
「居ないらしいですね。休日はカブで甘い物屋巡りやそうですよ。」
「あの・・・葛城さんの連絡先とか解ります?」
葛城さんも迂闊だな。連絡先を教え忘れるなんて。
「解りますけど、個人情報やから教えられませんよ。」
本人の承諾も無く教えることは出来ない。店の信用にかかわる。
「じゃあ、お友達になりたいから私の連絡先を葛城さんに伝えるのは
出来ますか?」
偉くグイグイくるねぇ。友達が居なくて寂しいのかな?
女の子のバイク乗りは高嶋高校にわんさかいるけれど
大人になって乗る娘は少ないしなぁ。
メールアドレスを葛城さんへ伝えることを約束してリトルカブの
説明をすることにした。
「基本、リトルカブの車体にカブ90のエンジンです。マフラーだけ
社外品のJ製の物を使っています。」
「ギヤは3速?」
「いや。4速。」ゴリラに組んだミッションと同じだ。
細かな説明を聞いた後、磯部さんは満足してくれたのだろう。
「じゃあ、明日に取りに来ますね♡」と
ゼファーに跨り颯爽と去って行った。
恐らく、本当の磯部さんの中身は見た目より幼いか可愛らしいのだと思う。
葛城さんと連絡を取りたいと言った時の表情は恋する女の子だ。
やはり惚れたか。
恋する女性は良いものだ。美しさ・愛らしさに磨きがかかって輝く・・・
女性を虜にする葛城さんは罪な男だ・・・
何か大事な事を忘れている様な気がする。
「考えすぎか・・・。」
今日は閉店。シャッターを下ろしてコンプレッサーの電源を切る。
明かりを落とすと店内には静寂が訪れた。
夕食後、葛城さんにメールをしたら、すぐに返事が来た。
「バイク友達が出来るのは嬉しいです。連絡しておきます。」
これで約束は果たせた。2人の恋の行方を見守ることにしよう。




