見かけと違う1台と1人
リトルカブの登録の為に、市役所へ行った。
毎度の事ながら御役所仕事にはイライラする。
白ナンバーで登録。すぐに廃車。排気量変更の手続き
そして、やっと原動機付き自転車1種から原動機付き自転車2種登録。
ナンバー1枚が無駄ではないかと思うが一向に改善されない。
受け取ったナンバーは取り付ける前にクリヤー塗装をしておく。
何年間置いてあったか解らないナンバープレートは
日光に当たると急激に劣化して粉を吹く。その予防だ。
リトルカブは完成した。
緑のボデーと白いレッグシールドはいつものカブと同じだが、
小ぶりなキャリアや全体に少し丸い車体は何とも愛らしかった。
だが、大島の表情は冴えない。
「あのセクシーな磯部さんには似合わないのではないか?
でも、本人の好みをどうこう言うのは商売人として如何なものか?」
葛藤していた。
◆ ◆ ◆
送信先:大島 中
本文:リトルカブが完成しました。
大島から送られてきたシンプルなメールをニヤニヤしながら読むリツコ。
幸いここは保健室。どんな顔をしてメールを見ていようが誰もいない。
「帰りに寄ります。ちょっと遅くなりますけど良いですか?」
・・・送信。
すぐに返信が帰ってきた。
「お待ちしています。店が閉まっていたら携帯を鳴らしてください。」
帰りに寄ろう。幸い、今日の仕事は少ない。
退勤時間となり、リツコはいつもより少しだけ早足で駐輪場へ向かった。
いそいそと帰るリツコ。愛車ゼファーに跨り、イグニッションをONにする、
ある者はタイトミニのスカートから伸びる足に見惚れ
ある者は『男が出来たのではないか?』と勘繰る。
高嶋高校に居る男子全ての視線を一身に浴びるクールビューティー。
しかし、その中身は
「大島サイクルへレッツGo!かっ飛べゼファーちゃん♡頑張れ~!」
生徒と大差のないバイク女子だった。
違うのは自制心が在る所だろう。
大型バイクに乗っていてもスピードを出し過ぎない。
免許を汚すような乗り方は決してしない。
厳つい見かけだが、ゼファーではスピードを出すバイクでは無い気がする。
出せと言われれば時速200㎞くらい出そうな気はするが
目くじら立ててスロットルを捻るより排気量からくるゆとりを
楽しむ方が良い・・・そうリツコは思っている。
国道161号線をひた走り、すっかり暗くなった中、大島サイクルの到着した。
スーパーカブやモンキーが停めてある店に
ゼファーが並んでいるのを見ると大きなバイクだと思う。
乗っている時は全く重さなんか感じないのだが。
「こんばんは。リトルちゃんを見に来ました~。」
リツコが店に入ると
「おじさんはトイレに行ってますよ。ちょっと待ってですって。」
ココアを飲みながら葛城が出迎えた。
年甲斐もなくはしゃいでいるのを見られてしまった・・・。
前回は泣いている所、今回ははしゃぐ自分。
神は何故私の恥ずかしいところを彼に見せる?
大人の女としてこれ以上彼に醜態をさらすことは出来ない。
リツコは気を引き締めた。
「リトルカブ。可愛いですね~。」
「そうね。普段乗りに欲しかったから。丁度良かったわ。」
「私もカブなんですよ。普段のバイクが大きいから
小さくてかわいいのが良くて。」
リツコは今まで色々な男に言い寄られてきた。
男達のギラギラとした獲物を狙う猛獣の様な眼が怖くて
ずっと冷たくあしらってきた(そのおかげで独身である)が
この青年にはそれが無い。
「ゼファーは大好きだけど、お買い物やちょっとしたお出かけには重くて。
それに、そろそろ大事にしてあげないといけない時期ですから。」
「おじさんが作ったカブは良いですよ。長距離でもOKです。」
「そう。」
長距離を走れることを利用してツーリングのお誘いか・・・
やっぱり、この人も男なんだなぁ。でもこの人ならいいかな?
そんな事を思い始めた時、大島が店の奥から現れた。
「じゃあ、私はこれで。また何処かでお会いしましょうね。」
葛城は店を後にした。




