普段乗り
フィクションです。登場する人物・団体等は架空の存在です。
実在する人物・団体等とは無関係です。
この時期は最もバイクを乗るのによい季節だと思う。
ライダーは熱中症になることが無く、バイクもオーバーヒートすることが無い。
整備をするにも最高な季節。暑いとそれだけで辛いし
寒いと手がかじかんで仕事が進まない。
朝からタイヤ交換・パンク修理・中古バイクの商品化・・・・
合間に洗濯・料理・掃除と暇そうに見えて忙しい。
「衣替えもせんとアカンし、一人もんは辛いわ~。」
そんな大島を近所の奥様方は
「お嫁さんならいくらでも紹介するわよ?」
とからかってくる。
女性に興味が無い訳ではない。縁が有るならお付き合いはしてみたい。
でも、いろいろ背負って生きていくのは面倒だ。
「バイクの事で精一杯。女の子の扱いまで良うやらん。」
適当な事を言ってお茶を濁しておく。
40歳を過ぎた今、もしもご縁があるなら気楽に付き合える女性と付き合いたい。
出来れば、今乗ってるゴリラの様な気楽さが欲しい。
普段乗りバイクの様な気楽に付き合える女性が良い・・・そんな事を思うのだった。
◆ ◆ ◆
「普段乗りのバイクが欲しい。」
高嶋高校の養護教諭・磯部リツコは思わずつぶやいた。
保健室の窓から駐輪場を眺めていると生徒が可愛らしいバイクで
通学しているのが見える。
リツコは高嶋高校OG。小型自動二輪免許を取得して通学していた。
大学時代に大型二輪免許を取得。今も通勤でバイクに乗っている。
愛車は高嶋市では珍しくカワサキ。ゼファー1100だ。
中古の2年落ちを買ってずっと乗っているが、普段使いには大きすぎる。
高嶋市内ではカワサキの店が無いから整備に大津まで行かなければならない。
非常に手間が掛かって使い辛いのだ。
ツーリングや高速道路を走ることを考えると手放す事はありえないが、
生産終了しているモデルだ。労ってやりたい。
一応、軽自動車は持っている。でもリツコは風を感じて走りたかった。
「私を閉じ込めないで。私は風。風のゼファー。」
そんな事を言って周囲をドン引きさせているが、本当は違う。
4輪の運転がダメなのだ。車両感覚がつかめずにそこら中を擦ってしまう。
バイクの感覚で加減速する為だろうか、隣に乗せた者は皆車酔いする。
気楽に乗れる小さなバイクが欲しい・・・彼氏も欲しいけど。
そんな事を思いながら外の景色を見ていると、長閑な排気音が聞こえた。
ポポッ ポポポポポ・トトトトトト卜・・・・・
シルバーのモンキーが走って行く。
ホンダモンキーは知っている。リツコが高校生の時も造られていたし、
通学に使っている生徒も何人か居た。
高嶋町から通勤に使うには厳しいものが在るかもしれないが
普段使いでコンビニやスーパーに行く位なら良さそうだ。
幸い、ボアアップや2種登録も容易だ。
「調べてみようかなっと・・・」
永年作り続けているのだから中古も多いだろう。
うちの生徒が乗れるくらいだから安くで買えるはず。
そんな甘い考えでリツコはスマホを操作し始めた。
ホンダモンキーの相場は高値安定中です。




