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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
10月
86/200

山分け

この物語はフィクションです。実在する人物・団体等とは無関係です。

小説と現実の区別がつかない方は読まない様にお願いします。

今日は日曜日。ネットオークションで得た利益を4人に渡す日だ。


早めに起きてカレーを作っておく。

昼飯を食っていくかは解らないけど、作りだめして冷凍しておけば

時間が無い時にレンジで温めれば食べる事が出来る。


ズボボボボボボ・・・野太い排気音が店先で止まった。

まっ黒なベンツのクーペ、しかもフルスモーク。

縦縞のストライプのスーツに派手なネクタイ。オールバックでサングラス。

明らかに堅気の人間ではない。


「おう。邪魔するで。」どすの利いた声を出しながら上り込んできた男に

俺は拳骨をお見舞いした。


「人の家に上がるときは『お邪魔します』やろが。」


「もう。中兄(あたるにい)ちゃんは全然怖がらへん。ワシ、怖いんやで?」

半泣きになって『ワシ、怖いんやで?』なんて説得力が無い。


「うるさい。怖かろうが偉かろうが、ワシの前ではお前は金一郎や。」


こいつは億田 金一郎。市内で金融業を商う男だ。

元々安曇河に住んでいたが両親が離婚。引っ越しして大阪へ行った。

大阪で成功していつの間にか安曇河へ舞い戻り、今では豪邸に住む。

俺より5歳年下。小さい頃、よく遊んでやった。


昔、騙されて借金を背負った時、取り立てに来た時は驚いた。

土下座してたら、いきなり取り立て屋がサングラスを外して

中兄(あたるにい)?僕や。金一郎や!」なんて言うんやもん。


横に居た若い衆が「(にい)?アニキの兄さんですか!」って

驚いてた。

その後は借金を返すのに協力してくれたり、

相手から迷惑料を貰ってくれたりと世話になった。


何でそこまで助けてくれるのかと聞いたら


「小さかった頃に、遊んでもろたりご飯食べさせてもろたりしたから。」


両親の仲が悪く、祖父母にもいじめられ、

子供の頃の金一郎にとって、ウチは唯一の逃げ場だったそうだ。


「アニキが怪我させられたと聞きましてな。来ましたんや。」


「ほれ。立ち枯れてる所を更に伐採や。」頭の傷を見せる。


「示談で1000万ってところでんな。何かあったらこの億田にお任せを。」


「うん。頼みます。」


「兄貴。カレーでっか?ちょっと貰えます?」


「おう。持って行け。」タッパーに詰めてやる。


こんどは「お邪魔しました。」きちんと挨拶して帰っていった。


本当は優しい子なんだがな、外見が怖い。Vシネマに出てきそうだ。

サングラスをかけているのは眼を隠す為。あいつは哀しい眼をしている。

この世で地獄を見た者の目。それを隠す為のサングラス。


大阪で何が有ったのだろう。


10時を過ぎた頃、4人組が現われた。


「わ!おっちゃん。頭怪我してるやん。禿げてるのにもっと禿げたやん!」


理恵・・・いきなり思った事を口に出すんじゃない。

それに禿げているとは何や。禿げてなんかいない。禿げかけているだけや。


「それ、今都中剣道部の外部顧問らしいですよ。」

「剣道部って今都中と新旭中しか無いもんね。」


道理で木刀を持っているわけだ。やっぱり剣道は嫌いだ。


それはさておき、4人に報酬を渡さなければいけない。

昼が近付いているので先に飯を食うかと聞くと


「おっちゃんのカレーは美味しいんだよね。いくらでも食べられる。」

褒められるのは嬉しいけど理恵は喰い過ぎだと思う。


「少しは遠慮した方が・・・」

速人が何か言っているが理恵には聞こえない様だ。


カレーを作っている間におかずやカレーにトッピングする物を

買ってくるようにと1万円を渡した。


「本当に1万円全部使ってよかったんですか?」

綾ちゃん。君が居ながら何故理恵を止められなかったのだ・・・。

「おっさん。すまん。」

綾ちゃんで止められんのに佐藤君に止められるはずがないから仕方ない。


4人はトンカツとハム、さらにコロッケを1万円分買って来たのだった。


3人はトンカツ・コロッケを乗せて豪快にカレーを流し込む。

綾ちゃんは「太るから」とカレーにトッピングはせず、

サラダをおかずに食べている。


見ているだけで満腹になりそうだ。


「ところで、おじさんは何で殴られたんですか?」


自転車をただで寄こせって言われた辺りの事をサラッと教えた。

下品な言葉ばかり使ってたから子供には聞かせる事が出来ない。


「木刀やったら下手すりゃ死んでたんじゃねぇの?」

佐藤君の言う通りかもしれんな。変な夢を見ていたから。


何だかんだ話をしているうちにカレーは無くなった。

育ちざかりだけあって皆よく食べること。


後片付けは高校生4人がやってくれた。その間に報酬を用意しておく。

こちらは手間賃と光熱費が有れば良い。7万円貰う事にする。

落札総額は21万円少々。残りは14万円となる。


14万円は4人で分けてもらおう。1人当たり3万5千円。

バイト代としては悪くないはずだ。


それにしても、中古で流して21万円とは、ずいぶん金をかけた車体だったな。

葛城さんの助けを借りたとはいえ理恵は良く勝ったもんだ。


4人とも大喜びだ。これだけ喜んでくれるならDax1台を分解した価値が在る。


でも、やっぱり分解するより、直して走らせてやれば良かったかな?

商売とは言えやりきれない気持ちになる時が有る。


秋という季節のせいだろうか。




その後、木刀で俺を殴った爺側の弁護士が示談で解決したいと願い出て来た。

慰謝料等で金一郎が言った通り1000万と提示したら借金してでも前科が付くのを

回避したいとのことで、その条件を飲むとの事だった。


銀行では借りる事が出来なかったと言う爺に億田金融を紹介。

無事に示談成立となった。


その数か月後。


「中兄。あの爺、亡くなりましたで。」と金一郎から報告を受けた。

あの爺。金一郎の所に借金を返せずマグロ漁船で働いていたらしい。

漁船から海に落ちて水死。マグロと一緒に冷凍されて帰ってきたと

金ちゃんは教えてくれた。


偶然、乗船前に保険金受取人と土地家屋の相続を億田金融にしていたそうだ。


「兄貴。これは兄貴の取り分でおま。」

アタッシュケースから札束を出してきた金一郎。


「そんな大金は持ってると怖い。預かっといてくれ。」と突っ返す。


「この億田に銭を借りる奴は山ほど(ようさん)()ますけど、

銭を預けるのはアニキぐらいでっせ。」何やら恐ろしい事を言ってる。


「ホンマに困った時の為に預けとく。増やしといてくれ。」と、無理矢理預けた。


「わかりました。ほな兄貴。またの御利用を御待ちしとります。」

金一郎はサングラスを掛け、肩で風を切りながら去って行った。

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