大島サイクル 臨時休業中
フィクションです。登場する人物・団体等は実在するものと無関係です。
ここは何処だ・・・?
見渡す限り霧のような靄の様な・・・
高嶋市内では年に数回、霧が出る事が有る。
でも、ここは安曇河町ではない。それだけは解る。
歩いても景色に変化が無い。全く進んでいない様に思う。
何が起きたか理解できずに歩いていると、背後から声がした。
「そっちに行っちゃダメ。」
小さな女の子が俺を見上げている。おかっぱ頭に赤いスカートと白いシャツ。
何処かで会った気はするけれど思い出せない。
「お嬢ちゃん。ここは何処か教えてくれるか?」
「こっち。」女の子に手を引かれて歩き出す。
しばらく歩くと階段が現われた。
「おんぶ。」
女の子を背負って階段を下りる。何処へ行くのだろう。
「お嬢ちゃん。何処に行くか教えてくれへんか?」
「下。」
しばらく階段を下りて行くとドアが見えた。
女の子は背中から降りた。
「ここから戻れる。」
「ありがとうね。助かった。」
しゃがんで女の子の頭を撫でると女の子が抱きついてきた。
「助けてもらったのは私。」
助けた覚えは無いのだが・・・?
ドアを開けて広がった景色は、白い天井・・・。
「気がつかれましたか?」
俺は病院のベッドに寝かされていた。
どうやら木刀で殴られた時に脳震盪を起こしたらしい。
手術でかけた麻酔と脳震盪の相乗効果で丸一日寝ていたんだと。
おかげで疲れは無いが体中が痛い。寝過ぎだな。
頭の傷はは5針縫ったそうで毛が剃られている。
少ない毛なのに。なんてこったい。
山で木を伐採すると地面が水を保つ働きが減って崖崩れや土砂災害が起きる。
俺の頭はそんな状態だ。汗をかくと一気に流れ落ちてくる。
そんな頭に生えている毛を剃るなど言語道断だ。
あのクソ爺め、許さん。
暫くすると近所の奥様方が現われた。奥様方によると
相手は剣道の有段者だったので下手すれば頭を割られていたとか
有段者故に警察の方でいろいろな事になっているとかの話だ。
店は閉めておいてくれたそうで、鍵を持って来てくれた。
「やっぱり結婚した方が良い。相手を探してあげる」と言われたが
丁寧にお断りをした。
CTスキャンの結果も異状なし。帰ることになった。
帰ってからは店を開ける気にならず、何もしないのも落ち着かないので
店先の掃除。血痕のある店では客も来にくかろう。
雑草を毟って一息ついていると警察が来た。
事情を聴くとか何とかなのでシャッターを開けて店内で話をした。
「・・・では、何かありましたら何時でも言ってください。」
はぁ・・・よろしくお願いします。
難しい話が終わり、帰るのかと思ったら
「ところで大島さん。あれって漫画で出て来たバイクですよね?」
ああ、そうですね。アニメ化もドラマ化もされた名作でしたね。
「売る予定ですか?値段は?」
予定も値段も未定だと伝えると更に食いついてくる。
「売るときには是非ご連絡を!」メモを押し付けて帰っていった。
・・・警察署の番号だ。勤務先に電話して良いのだろうか?
あぁええわ。汗だくになっても頭は洗えんし少し休もう。
もうすぐ9月が終わる。風が急に爽やかになった。
稲刈りもほぼ終わり、店先に新米が並んでいる・・・安曇河に秋が来た。




