轟・バイク通学許可申請をする
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
販売店と両親の署名と印鑑・自宅までの距離・バイクのメーカー
車種・排気量・・・・
「そして、自分の名前・・・我ながら勇ましい名字やな」
記入欄の最後に轟 美紀と署名しながら思う。
バイク通学許可申請書に必要事項を書き提出。
生徒指導担当の教師のチェックを得て無事に許可が出た。
「轟さんは安曇河だから大丈夫だと思うけど・・・」
この数か月間に起きたバイク絡みの事件の影響で
バイク通学に関する校則の改訂が検討中らしい。
「申請するなら今年中でないと許可が下りない子が出るかもね。」
検討中との事で詳細は聞けなかった。
バイク通学時の決まりを書いた冊子を片手に教室へ戻ると
同級生が声をかけてきた。
「どう?やっぱり厳しくなってきた?」
「今年中に許可を出さないとヤバいって本当?」
教習所へ通っている者が興味津々で話しかけてくる。
「ん~安曇河は大丈夫そうやけど、なんか変わるみたい。」
美紀は生徒指導で聞いた事を同級生に話した。
「安曇河が大丈夫なら高嶋や朽樹も大丈夫だよね。」
バイクが無ければ通学が大変になる地域だから多分大丈夫だろうと思う。
「蒔野はどうかな?」
近江今都駅より北の蒔野は今都以南より電車の本数が少ない。
そんな状態なのにバイク通学を禁止されたら死活問題だ。
大津や長浜から通っている生徒も極少数いるが、その辺りが
バイク通学禁止になる事も無いだろうと皆は思った。
「何?何か楽しい話?」
すでに春からバイク通学している理恵が話の輪に入って来た。
「この娘に喧嘩を吹っかけた2年も事故で死んだ奴も今都中出身だったよね。」
「?」
「あのね、来年からバイク通学の許可が厳しくなるかもって話をしていたの。」
何の事か解らずキョトンとしている理恵に美紀が説明をした。
「ふ~ん。普通に走ってれば何でもない規則を守れない奴が居るからね~」
「で、今都がバイク通学禁止になるんじゃないかって話をしていたところ」
「でもな~。今都の生徒だけバイク通学禁止やと不味いやん」
「何で?」
「高嶋市の経済発展の先駆者である偉大なる今都市民を虐げるなど
貴様たちは東洋で最も劣った生き物だ!」
理恵はミサイル発射が名物な某国国営放送のアナウンサー風に
今都町民の真似をした。
教室は笑い声に包まれた。
その頃、大島サイクルでは爺の怒鳴り声が響いていた。
「偉大なるアジアの指導者であり、高嶋市経済発展の立役者でもある
今都市民が来たやったのにどうして貴様は
『偉大なる今都市民様がおいでになられた。自分は東洋一の幸せ者だ』
と言う顔をしない!事も有ろうに『いらっしゃいませ』とは何事だ!」
「お前は何処かの国営放送か!何しにきやがった!」
今都市って何だ?ここは高嶋市の安曇河町だ。
「俺は今都市民だ!ひれ伏して自転車をよこせ!このキ〇〇イ!」
客なら対応はしなければならない。しかし、こちらにも客を選ぶ権利はある。
近所の奥様方が唸り声を聞いて何事かと覗きに来た。
(警察を呼んでください。)アイコンタクトを取る。
「どの様な自転車をお求めですか?」
「そこに在るボロい自転車をタダで引き取ってやる。捨てるならよこせ!」
「金属回収は業者に任せてあります。御引き取りを。」
「我が今都市はぁぁぁぁぁ!高嶋市で一番のぉぉぉぉぉ!経済都市ぃぃぃぃぃ!」
爺が暴れ出した。
木刀を振り回す爺。大島の頭に木刀が振り下ろされる。
頭から血が流れてきた。避けきれなかった様だ。この爺、剣道経験者か?
これで傷害事件確定。ここからの防御は正当防衛だ。
スマホを構えた奥様が「撮った」と親指を出したのを確認して
奥様方と一丸となり押さえつける。そこへパトカーが到着。
爺は連行されていった。
流血していたので店を閉めて病院へ行こうとしたら
「閉めておくから早く医者へ行きなさい」と言われた。
その時、視界が歪んで意識が遠のいた。そこからの記憶が曖昧だ。
目の前が真っ暗になり、俺は崩れ落ちた・・・と思う。
サイレンの音。「大丈夫ですか!」救急隊員の声・・・
他人事の様な気がしてぼんやり眺めていた。




