ダックス(オークション)
分解したDaxの部品をインターネットオークションに出品した。
さて、いくらになるのやら。
「バラバラにされて売られるなんて寂しいね。」
「いくらになるんだろう?」速人と理恵が画面を見ている。
まぁ慌てるな。オークションは水物だ。その時次第で相場は変わる。
次々と入札件数が増える。3万円でスタートしたエンジンは5万円を超えた。
1万円で出品したフレームも5000円の値上がり。悪くない。
佐藤君と綾ちゃんはデートで来ないそうだ。
綾ちゃんがDioをボアアップしたがった理由が解った気がする。
おっさんは工場に居るからと声をかけて趣味のバイクを弄る。
今度修理するのはモトコンポ。トランクバイクと呼ばれた小さなバイクだ。
漫画で有名になったバイクだが、残念ながら作品中にある様な走りは出来ない。
ある者は愕然とし、ある者は作品中に在る走りを求め改造する。
修理部品が出ない事から電動へコンバートした強者も居る。
『※この作品はフィクションです』ってやつだ。
調子の良い個体で時速40㎞出れば上等・・・。
運ぶ事を重視していたので性能はそれなりだ。
同じデザインで電動バイクにすれば売れそうな気はする。
車載する為にキャブレターのガソリンを抜けるようになっている。
幸いこの個体もキャブレターのガソリンを抜いて保管してあったので
キャブレターは綺麗。ガソリンタンクを外して洗浄剤を満たしておく。
とりあえずはモトコンポは置いておく。
さて、今日はオークションに協力してくれている2人に昼飯を準備するか。
鍋に火をかける。昼飯はカレーライスだ。
野菜と肉を炒め、水を入れたらアクを丁寧に取り炊き続ける。
隠し味にヒガシマルのうどんスープを1袋入れておく。
鰹出汁が効いて美味くなるのだ。これは俺の母ちゃんから習った。
父ちゃんと母ちゃんが事故で亡くなって、勤めていた工場が倒産して・・・
カレーを作るたびに思い出す。
結婚なんか考える時間が無かったな。もしも結婚していたら、
速人や理恵と同じくらいの子供がいたのかなと思う。
ルーを入れた後はゆっくりかき回しながら煮込む。
肉は形を保っているが、野菜は溶けてしまっている。
これは大島家のカレー。
俺が唯一再現できる母ちゃんの料理だ。
一旦火を停めて買い物かごを下げて肉屋へ向かう。
今日は豪華にカツカレーにしよう。食べ盛りが2人いるからと
特大カツを4枚、チキンカツを3枚買って家に戻った。
「戦況はどないや?」声をかけると2人は
「最前線異常なし。極めて順調。」
「順調に値上がり。良い部品ですから、入札も順調です。」
昼ご飯までオークションの監視以外に動画でも見て時間を潰すように伝えた。
2人はバイクレースに興味はないのかな?
小排気量クラスのレースとかは見てると面白いんやけどな。
競輪の地域ライン・先行・追い込みとかの戦法に通じるものが在る。
高校時代自転車のチームを組んで走ってたからああいうのが好きなんだ。
楽しさをわかってほしいな。公道レースは許さんけど。
さて、昼飯の支度に戻るか。
カレーを煮込んでいる間に米が炊けた。
炊いた米はほぐしておかないとベシャッとなる。
切る様にしてばらけさせると12時を知らせるサイレンが鳴った。
「へ~おっちゃん、料理も作れるんや。意外やな。」
カレーくらい俺でも作れる。独身の四十男を舐めるな。
「順調に入札が入ってますよ。」
良い部品だと入札があって張り合いがあるな。
それはさておき、飯だ。
2人とも食べ盛りだから良く食べる。15皿分は作ったはずなのに
無くなりそうな勢いだ。速人が3皿食べるのは分かるけど
理恵は10皿は喰ってるよな?カツも豚・鶏を2枚ずつ食ってるし。
この小さな体の何処にカレーが収まっているのだろう。
女性の体はこの世の神秘だと思う。
「おっちゃん。デザートは無いん?」
結局理恵はカレー山盛り10皿・豚カツ2枚・チキンカツ2枚を食べて
さらにアイスクリーム1ℓと缶詰めのみつまめを食べた。
「何処に(食べたものが)入っているんでしょうね?」
異世界にでも召喚されてるんじゃないかと答えておいた。
食事を終えて再びパソコンの画面を見ていると連絡が入っている。
即決で出した物が次々と落札され始めた。連絡を取り発送先を確認する。
暫くすると2ストロークエンジンの音が近付いてきた。綾ちゃんと佐藤君か。
「こんにちは~。順調ですか?」
「こんにちわ。おじゃまします。」
理恵と綾ちゃんが送り状を記入する。速人と佐藤君は梱包して箱詰め。
入金され次第出荷できるように整頓していると夕方になった。
「じゃあ、入金されたら宅急便の営業所に持って行くから。」
「良いお小遣いになりそうだね。」
「御馳走様でした。」
「よろしくお願いします。」
「じゃ。また。」
4人は家へと帰っていった。




