ダックス(分解)
理恵と速人はヘルメットを被ったまま震えている。
綾ちゃんと佐藤さんは何が起こったのか分からず混乱している。
う~ん。らちが明かない。らちが何か知らんけど。
そこへカブのエンジン音が聞こえてきた。葛城さんだ。
「あ!」
葛城さんも絡んでいるのか。
「理恵ちゃんから相談を受けまして、このダックス?の持ち主を・・・。」
仕事柄、葛城さんには守秘義務があるので言わない様に制した。
「レースを吹っかけて来た奴を葛城さんを使って捕まえたって処か?」
頷く4人。
「で、どんな競争をしたんや。おっさんに言ってみぃ。」
「今都から安曇河まで161号を走るレース。私は法定速度で走ってた。」
「相手が調子こいて追い抜いたところを葛城さんが捕まえました。」
震えながら2人が話す。
「正直に話してくれたから許す。おっさんは鬼やないで。」
笑顔で答えた。
「もうヘルメットは外しいな。暑いし重いやろ。」
2人はホッとした様子でヘルメットを外す。
「どうや。競走するようなバイクやないことが解ったやろ?
君らのバイクは通学用。目一杯スロットルを開けてもギリで
スピード違反出来んようにしてる。」
「161バイパスで10km/hオーバーくらいなら捕まえませんね。」
スピードメーターには誤差が認められている。
時速40㎞でプラスに15%・マイナスに10%の範囲を示す・・・だったっけ?
実際は時速40㎞で走っていても、メーターは時速36~46㎞の範囲を指せばOKだとか。
時速60kmの場合だと54~69㎞の範囲。案外いい加減な物だ。
で、捕まえた後、学校で何かあったんか?
「大村は退学処分になりました。」
「免許も取り消しだって。」
「いい気味だよな。」
「私は悪くないも~ん。」
まぁええわ。親からして馬鹿者揃いみたいやし。心も痛まん。
とりあえず分解して要らない部品を売ろうと思っている。
写真を撮ったり発送する手間が面倒だ。そんな事を話すと
「じゃあ、僕がその辺りをやります。」と速人が引き受けてくれた。
報酬は落札額の半分。良い小遣い稼ぎになるだろう。
速人が外した部品の画像を撮ってオークションに流す。
理恵と綾ちゃんで送り状を書いて、速人と佐藤君は梱包。
入金の確認と宅急便の営業所への持ち込みは俺。
役割を決めて解散となった。
閉店後。さぁやるぞと気合を入れてて分解に取り掛かる。
エンジンに150㏄と刻印がある。125㏄以上で登録区分が変わる。
普通自動二輪で登録すれば高速道路を走ることは出来るが
登録の変更が面倒なので使わない。処分する。
小型限定免許で150㏄を運転した代償は大きかったんだねぇ。
高校退学に免許取り消し。高嶋市では致命的かも。
でも、あの親の子だと思うと心が痛まない。俺は今都の人間は嫌いだ。
キャブレターも妙に大きなレース用部品が付いているので処分する。
妙な形のハンドル・短すぎるリヤサスペンションも処分。
ウチでは使わない部品がたくさん付いている。
最初は直す事も考えていたが、分解していくうちに基本骨格だけになってしまった。
もうフレームや配線もオークションに出品してしまおう。
最後の部品は『Dax フレーム 書類付きだけどジャンク』だ。
部品はボックスに小分けしておく。あとは高校生4人組の仕事だ。
乗っていた奴はアレだったようだが、部品は良い物だった。
高く売れると良いな・・・そう思いながら店の明かりを消した。




