ダックス(買い取り)
※このお話はフィクションです。実在する個人・団体・場所とは無関係です。
※物語に登場する高嶋市は架空の街です。存在しません。
朝っぱらから電話が鳴る。同じ番号から何度もかかってくる。
番号から察するに今都からだ。
ああ・・・鬱陶しい。仕方が無い。出るくらいはするかな。
「おい。バイクを買い取れ。見に来い。」
電話の仕方も解らないのか?こんな馬鹿者は相手しないに限る。
引取りや出張買取はやっていないと告げると怒りだした。
「お前等安曇河の貧乏(自主規制音)が断るとは何事だ!我ら栄光の今都市民に
何て口をききやがる。この(自主規制音)の(放送禁止用語)で(差別用語)
な(下品な言葉)は(聞くに耐えない言葉)で(自主規制音)だ!」
そこまで言われて商売したくないので電話を切った。
今都町・・・
かつては江若鉄道の終点として鉄道の街として栄えた町。
機関庫や鉄道関係者の宿舎があり、その周囲の歓楽街共々栄えたそうな。
早場米の産地としても知られ、毎年8月半ばに出荷する。
高嶋郡で最も栄えた繁栄の街、栄光の今都町。
それも今は昔。
江若鉄道は廃止後40年を超え、往時の繁栄を知る者はわずか。
国鉄・JRになって以降は機関庫も無くなり、宿舎も解体。
歓楽街は無くなり、商店街にはシャッターが並ぶ。
自慢の早場米は米の冷蔵保管庫の普及と共に需要は減った。
地元で買う者は・・・聞いたことが無い。
特に名産も名物も無い町が栄えている理由は自衛隊の演習場があるから。
環境補助と言う名目で落とされる金で建てた箱モノが立ち並ぶ今都。
「お前たち安曇河と違って今都は金持ちだ。」
中学の頃、今都出身の糞教師が言ってたっけ。
それから二十年以上。防衛省からの環境補助金が削減された現在、
今都は補助金で建てた施設の維持費により、高嶋市の足を引っ張る
御荷物となり下がった。
ああ、栄光よいずこへ・・・。
そんな今都は今でも他の町を馬鹿にし続けている。
自分たち以外の高嶋市民は全て貧乏人で頭がおかしいと思っているのだ。
そんな栄光の今都に住む者がわざわざ『貧乏町』こと
安曇河の店に電話してくるには訳がある。
店が無いのだ。何故か今都に出店する店は次々と閉店する。
バイク店も有るにはあるが、素人には敷居の高い旧車専門店と
営業しているのか何だかわからない評判の悪い店しかない。
そこで今朝の電話がかかって来た訳である。
午前十時過ぎ。大島が近所の奥様方と菓子をつまみながら喋っていると
『高嶋市』と書かれた軽バンが店先に止まった。
「おい!チャリンコ屋!買い取れ!」
暴走族仕様のホンダダックスが積まれていた。
税金で動かしている車を私用で使いやがって・・・
腹が立ったので「5000円でも要りませんわ」と言ってやった。
「お前等安曇河の貧乏(自主規制音)が断るとは何事だ!我ら栄光の今都市民に
何て口をききやがる。この(自主規制音)の(放送禁止用語)で(差別用語)
な(下品な言葉)は(聞くに耐えない言葉)で(自主規制音)だ!」
「じゃあ2000円。1000円でもええよ。」
時間が経てば経つほど買取値段を下げる。お前を相手する手間賃や。
真っ赤になって怒っているけど知らん。
俺達の憩いの時間を邪魔しやがって。
よほど処分したかったのか、奥様方が市役所に電話をしているからか解らないが
最終的に200円で買い取る事となった。
「お前等は頭がおかしい!くたばれ(放送禁止音)(差別用語)!」
捨て台詞を吐いて去る軽バンにご近所の奥様方と一緒になって
凍結防止の塩化カルシウムをぶつけまくった。
奥様方に店番をお願いしてナンバーを切って一時抹消してきた。
もしも返せと言われたら返してやる。書類は渡さんけどな。
店に戻って、忙しいなかを留守番をしてくれた奥様方にお礼を言い
一息ついた。全く・・・合併してから変な奴が多くて困る。
さてと・・・何だこのダックスは。高級な部品は付いているが
明確な目的が見えない。速く走りたいのか大きな音を出したいのか。
目立ちたいのか恥をかきたいのかさえ分からない。
まともに直すのは手間だなぁ。
とりあえずバラバラにして部品を処分しよう。
そんな事を思っているとあっという間に夕方。賑やかな声が聞こえる。
「やっほ~。おっちゃ~ん・・・ん!」
「「「げ!」」」
理恵・速人・綾ちゃんに佐藤君か。佐藤君はウチの紹介した店で
エイプを買った子やな。トゲトゲ頭のやんちゃ坊主。
4人はダックスを見て固まった。何か知ってるな。
ちょっと問い詰めてみるか。




