速人のモンキーを作る
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません
日曜日の大島サイクル。休みだがシャッターの奥では
速人のモンキーを修理するための作戦会議が開かれていた。
「フレームは歪んでいない。ステムのベアリングを交換して使おうと思う。
足周りはどうする?今は外国製っぽいのが付いているけど怪しいど?
どんな使い方とか乗り方をするか教えてくれるか?」
「通学で真旭から今都へ国道161号を走ります。走っていて怖いのは嫌です。」
「だとすると最低でもリヤサスくらいは変えたいな。ショックだけで良いわ。
スイングアームはそのままでも大丈夫やと思う。今付いてるのは随分長いし、歪んで
溶接も雑やから使うのは止めておこうか。」
「あまり改造した感じにしたくないです。生徒指導に睨まれるのはちょっと。」
「ほな、その辺りで見繕っておく。中古で使わん奴があるから自分で付けてみ。」
デリケートなベアリングレースの打ち替えは手伝った。
スイングアームは長期在庫の純正加工2センチロング。
よく見なければわからないがよく見ても解らない・・・だから売れなかった。
フロントフォークは某社のインナーフォークキット。
使おうと思ってとっておいた中古を付けてしまおう。
タイヤ・ブレーキ・ホイール・ハブも予算の都合で中古品だ。
ホイールをタイヤからを外すのに苦労している。
そこは特殊な技術は要らないので頑張ってもらおう。
合わせホイールからタイヤを外すのは最初の試練だ。
錆びて外れないのだろう。外したら錆取りだ。
使い古しだが花咲かGを用意した。
錆を取るに4日はかかるがタダだから我慢してもらおう。
速人のバイトが無い日や日曜に作業は進む。
ブレーキは重要なのできちんと教えた。
中古だが強化シューだからノーマルよりは良いだろう。
「ベアリングをチェックしてゴロゴロしない奴を選べ。」
と言ったらベアリング交換済みのやつを引き当てた。
速人はなかなか見る目がある・・・いや、無いな。
あったらこんなバイク買ってないか。
使わない部品はネットオークションで売ったらしい。
ジャンクとして出品すると売れるそうだ。
ノーマルのメインハーネスは在庫が無かったので
社外品だが日本の有名メーカーの強化ハーネスを買ったらしい。
そんな物が出ているとは知らなかった。
注文した部品が届くのを待つ間にタンク・サイドカバー・ホイールを
知り合いの自動車板金店に頼んでシルバーに塗装。
2液ウレタンスプレーを買うより安い値段で塗ってもらえた。
お年寄りが乗るハイブリッドカーみたいな色だが仕方ない。
そのハイブリッドカーの修理ついでに塗ってもらったからね。
修理をしていると理恵が覗きにやってくる。
速人と仲が良い。見ていて微笑ましい。
男女の仲に関しては専門外なので放っておく。
「な~おっちゃん。私のゴリラのウインカーって壊れてるん?」
「ん?点いてないか?」点検するが異常はない。
「ウインカー出してるのに音が鳴らへんねん。信号待ちで言われた。」
「ウインカーブザーか?元々ついてないぞ。」
「良いウインカーを付ける店があるって連れて行かれそうになったわ~」
「そりゃ新手のナンパか?何とも物好きな奴やな!」
「それってエイプに乗った人じゃないですか?」
切りの良い所で作業を終えた速人が会話に加わった。
「エイプちゃうで~。たぶん中華のコピーバイクやわ。
変なエンジンやったもん。私でも解るわ~。」
「多分、僕にバイクを売った店の人です・・・。」
「理恵ちゃんよ、もしかして眼鏡でポニーテールの兄ちゃんやったか?」
「優しそうな小柄な人やった。心当たりある?」
「じゃあ違うな。速人はどうや?」
「その人です・・・・・。」
速人は黙ってしまった。
真旭町
安曇河と今都の間にある町。繊維工業が盛ん。
繊維工場で火事が起こると一気に大火災になるため
消防団活動が盛んである。