不正登録③
フィクションです。実在する人物・団体等とは無関係です。
学生たちが夏休みを終え、大島サイクルは若干の閑散期になった。
暇だからとボ~っとしていると売上にならないので、
空いた時間に中古のスーパーカブを造ることにする。
メーカーから新品フレームは買ったが、オークションで
中古フレームも仕入れてある。多少くたびれた感じが有るフレームで
50㏄・3速のカブを2台作って店先に並べておくと
免許取立ての学生が見に来る。
フレーム以外の部品は下取り車両から外した中古で組んである。
値段はオークションで競り落として輸送費を払ったくらいに抑えている。
1台辺りの利益は2万円くらい。結構良い儲けになる気はするが、
実際は2日に1台完成すれば良い所なので時間の割に利益は少ない。
中古部品とは言え劣化しやすい所や調整が必要な所は
キッチリ整備してあるから勘弁してほしい・・・
あ、その辺りの工賃は考えてなかったわ。まぁええか。
趣味性の高いモンキー・ゴリラのカブ系エンジンを積んだ
レジャーバイクを修理して並べた事も有った。引き合いは多かったが
生産終了のアナウンスが出た途端、転売目的で買う客ばかりが来た。
そんな客は対応するだけで疲れたので今は店頭にレジャーバイクは並べていない。
出来れば乗りたい人に乗ってもらいたいから
一見さんには売らない。言わば『裏メニュー』だ。
「あんたは器用にバイクを組み立てるなぁ。」
「でも、ワシはオバはんみたいに煮物は作れへんけどな。」
「うちの孫も免許取りに行ってるわ。」
「カブやったら暴走族みたいなことせんし、
うちの子は、これ乗らせよ。」
「まだ10年も先やがな。それまでウチの店を持たすんか
・・・頑張らんとアカンな!」
すぐには売れないが、とりあえず店は話し声が絶えない。
今日も賑やかな大島サイクルである。
◆ ◆ ◆
賑やかな声が絶えない大島サイクルから約10㎞離れた今都町
静まり返ったショールーム。埃を被ったバイク。
今日もセレブリティ―バイカーズTataniに訪れる客はいない。
それもそのはず。Tataniで買ったバイクは本来の登録をしていない物ばかり。
幹線道路に出た途端、検挙されて免許取り消し・免許停止を喰らっているからだ。
田舎で自動車やバイクに乗れないのは移動手段が無いのと同じだ。
しかも自称セレブ達が住む高級住宅地にはバス路線が無い。
誰かは解らないが「バスがうるさい。排気ガスが臭い。」とバス会社に
クレームを入れた者が居たからだ。赤字路線だった事も有り、
バス会社はここぞとばかりに路線を廃止した。
バスが駄目ならタクシーで・・・それも無理である。
近付けばクレーム、乗せてもクレーム。流しのタクシーは近寄らない。
電話で呼ぶが、何故か予約で埋まっていて来てくれない。
次の手段は自転車だが、自転車を売っている店が無くなってしまった。
インターネットで買えば良い?それも無理。パソコン操作が出来ないのだ。
結局、歩くしかない。最寄りのスーパーまで約3㎞。
灼熱の中、フラフラになりながら歩く老婆が多く見られた。
旦那は旦那で免許を無くして老け込んだり呑んだくれたり。
夫婦仲が悪くなった家庭もある様だったが、外面を重んずるセレブ達。
表向きは涼しい顔をしている。
こうして自称高級住宅地のセレブ達は自宅に居る事しか出来ず、
出掛けてもせいぜいスーパーマーケットまで歩いて行く事しか
しなくなった。
「なぁ、都会に帰ろう。車なんか乗らんで良いし、電車は有るし。」
そんな会話が有ったとか無かったとか・・・。
誰も訪れる事のない事務所で代表の他谷は書類製作に追われていた。
350㏄や400㏄、またはそれ以上の排気量のバイクを
原付きや小型自動二輪登録する書類の製作。
細々とやっていたが、このところTataniの稼ぎ頭となっている。
他の店ではフレームナンバーの石刷りが必要となるはずだが、
Tataniでは必要ないので他店よりも人気だった。
今都にある市役所支所で書類だけのバイクを登録する。
最初は数十件の登録を不審に思い本庁へ問い合わせするような輩は居たが
本庁へクレームを入れたら居なくなった。
今では皆、|他谷(tatani)が支所を訪れると挙って対応しようとする。
車名ががハーレーであろうがドゥカティであろうが
「これで頼むわ。」と数枚の|賄賂(タバコ代)が入ったポチ袋を渡せば
ナンバーが発行される。
元々法令順守の考えが無い町だ。小銭さえ渡せば何でも引き受けてくれる。
発行されたナンバーはその場で返納して廃車証明書を受け取る。
これと販売証明書を郵送すれば他の街でも原付登録・車検不要な
お手軽な大型だけど原付登録なバイクが出来上がるのだ。
1件あたり1万円の利益。今日は30台捌いたから30万円の利益。
「やっぱり今都は最高な町やね。」
今日も元気だビールが美味い。修理の外注先は見つかっていないが、
もう書類だけで儲かっているから放っておくことにしよう。
ビールの空き缶で散らかった事務所内に鼾が響きわたった。




