形見のカブを直す
大島サイクルでセル付きスーパーカブ70の入庫は珍しい。
セル付き50なら4速のある50カスタムかリトルカブ。
特に50カスタムはマニア受けするアンチノーズリフト機構
が付いているので走りを求めるマニアからは
チューニングベースとして求められている。
自動二輪免許を持っているならパワーのある90カスタムが
売れ筋だったからだ。
パワー・燃費・維持費・・・中途半端な70の人気はいま一つだった。
しかもヘッドライトは丸ではなく四角。これが「カブらしくない。」
と一部マニアに不評。クラシックバイクとしても人気は今一だ。
ところが、丸いヘッドライトへのこだわりが無く、二段階右折と
30㎞/h縛りから解除される70カスタムは実用的には不満は無い。
50㏄と比べれば1.5倍の排気量なのでパワーは必要にして十分。
カブ90よりショートストロークなエンジンは振動が少なく
安曇河から今都への通学には悪くない選択だ。
「燃料系は清掃だねぇ。」
タンクに洗浄剤を満タンにして置いておく。その間にキャブレターは分解して
クリーナーへ漬け込む。
「タイヤ・バッテリーは交換。」
これは劣化しているので仕方ない。
「キックペダル・チェンジペダル・ジェネレーターのOリング。」
漏れてはいないが念の為の予防整備だ。
「タペット調整ついでにキャップのOリングも交換っと。」
タペット周りを見る限りオイル焼けは少ない。
普段の仕事の合間や閉店後の一息ついた時間に作業をする。
各ケーブルに注油をしたりエンジンオイルを交換したりは
言うまでもなく作業する。
燃料タンクやキャブレターが駄目なら予算オーバーになるが
幸い致命傷になるような痛みは無くパッキン・ホースの交換で
再使用が出来そうだ。
組み直したキャブレターにガソリンのチューブを繋いで
タンクにガソリンを入れてとりあえずキーはOFFのまま
キックを数回。エンジン内にオイルを巡らせるのとキャブレターへ
ガソリンを送り込む為の空キックだ。
数回キックをしたのちにキーをONしてエンジンを始動する。
数回のキックでエンジンは目覚めた。
分解再組立てしたエンジンほどではないが
まぁまぁ静かなエンジン音だ。
仮ナンバーを取り付けて近所を一回りする。
チェーンの張りを見て、遠心クラッチを調整して終了。
ついでに役所まで行ってナンバー登録をするが、最近は
色々と証明や顛末書を書く項目が多くうんざりする。
「最近、登録が厳しいな。何かあったん?」と聞くが
窓口では「知りません。」と無愛想な対応しかしない。
幸い、ここは安曇河町だ。
今都支所で同じ対応をしたら市民が怒鳴ったり怒ったり
暴れたり、下手すれば殺害されるところだ。
おとなしい安曇河町だからこの人は職員として居られるのだ。
(だからこの人は安曇河支所に配置されたのか)
何となく納得してナンバーを受け取りカブに取り付けた。
自賠責保険は農協で入るとの事だったので今回は手続しない。
予定より少し早く作業が終わった。
完成したことを電話すると美紀ちゃんのお母さんが出た。
「え?あのバイク直ったんですか?」
驚く事ではない。
スーパーカブは地獄の底から蘇るバイクなのだから。




