プライベーター大村
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名等とは関係ありません。
「大村公民館長さんのおかげで市のバスを格安で
借りる事が出来ました。今回の旅行はレンタカー代が
浮いた分、呑みましょう!かんぱ~い!」
窓から空になったワンカップ日本酒の瓶や缶ビールの
空き缶が投げ捨てられライダーやランナー、そしてサイクリストにぶつかる。
割れた瓶で怪我をする者、パンクする自転車・・・。
バスに書かれた『高嶋市』の文字を見た誰かが呟いた
「税金で観光バスを動かしてるんか・・・酷いね・・・。」
高嶋市では市役所のバスを市民活動・研修・福祉の
目的で無料で貸し出している。
本来は旅行などには使えないが、公民館主催ならば市民活動と称して
公務として借りる事は容易だ。借りればこちらの物。
活動自体に監査も確認も無い。
車内では飲食禁止・飲酒禁止だが関係ない。
文句を言う運転手は市役所に苦情を入れて辞めさせてやれば良い。
行き先は一応申請するが関係ない。
ポチ袋に2~3千円入れて運転手に渡せば何処にでも行く。
過去には受け取らずに「申請に無い所へは行けません。」
なんて正義感の強い運転手がいたが市役所に言って辞めさせた。
クビになるより賄賂を貰って仕事を続ける方が良いのだろう。
何せ我々は栄光の今都町民なのだ。
高貴な者へ下賤なものが物申すなどもっての外だ。
宴会やグルメツアーは親睦会・交流会・食育教育。
グラウンドゴルフ・山歩きなら体育事業推進か健康福祉事業。
老人会の旅行なら福祉事業。風俗店は青少年の健全教育・・・
特に福祉事業の場合はやり放題だ。認知症の老人なら何をしても許される。
福祉の御旗のもとにおいては何者も文句をいう事は出来ないのだ。
使う側のメリットは多い。昨今のレンタカー代値上がりに対し
市のバスを借りるのに必要なのは公民館長へのお礼のみ・・・
レンタカーを借りるのと比べれば約3分の1だ。
金銭的なお礼は公民館長のちょっとした役得・・・
手間もかからず元手も要らず。申請書を書く時間は1枚5分かからない。
1回あたり2~3万円。月当たり40万円近い臨時収入だ。
(今都は金持ちで一番税金を納めている。市の財産は今都市民が使って当然。)
息子のバイク資金の為、公民館長の大村は今日も
副業と化したレンタカー業務にいそしんでいた。
◆ ◆ ◆
「お届け物で~す。」
大村家に注文していたエンジンが届いた。
「これで高嶋高校最速だ~!ギャハハハハ~!」
大村家に笑い声が響く。
幸い海外製とはいえ日本の出品者から購入した事も有って
配線は無事に繋ぐ事が出来た。
エンジンオイルは入っていないと説明書に有ったので
レーシングタイプと書いてあるオイルを入れておいた。
エンジンを始動するためにキックペダルを踏み込むと
今までのエンジンよりも排気量が大きくなっているからだろう。
非常に踏みごたえがある。
キャブレターやマフラーはパワーが出る様に有名なブランドで揃えた。
ズドン!ボンボンボンボン・・・
豪快な音を立ててエンジンはアイドリングした。
「勝てる!これで『湖岸のお猿』に勝てる!」
栄光の今都市民の顔に泥を塗った安曇河の奴は許さない。
復習に燃える大村は夜空に向かって高笑いを響かせた。
近所の家から苦情が来た。
◆ ◆ ◆
次の日、登校した大村は注目されて有頂天だった。
皆が見る前で
「1年の白藤理恵、『湖岸のお猿』を撃墜するぜ~!」と
高らかに宣言する。
「理恵ちゃん。あんなこと言ってるけど、相手にしたらアカンで。」
「あんな奴放っておけ!」
「無視、無視。負けるよりグリグリ回避。」
綾・亮二・速人に言われるが、理恵は携帯の画面を見ている。
「ん~。挑戦くらい、いくらでも受けるよ~。」
ニコニコと微笑む理恵。
「挑戦は受けるけど、グリグリは受けたくないな~。」
何か考えがある様だ。この時3人には理恵が何を企んでいるのか解らなかった。
ナンバーは正しく登録しましょう。




