亮二・ゴリラに乗る
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは関係ありません。
「ヤンチャ?誰が?」
葛城さんが眉を顰める。
「ウチのお客さんの理恵ですわ。競走を仕掛けられたそうで。」
葛城さんの目つきが怖い。仕事モードになったかな?
「よーいドンで加速中に相手が故障して終了したそうで。」
「・・・若いですね。」
「そうですね。」
「相手はどんなバイクですか?」
「DAXやそうで。猿と相性が悪い名前ですな。」
「解りました。見かけたら注意しておきます。」
「理恵にはお仕置きをしておきましたんで、もうしない筈ですけどね。」
拳骨の中指を立ててグリグリのポーズを見せる。
「漫画でありましたね。幼稚園児の・・・」
また来ますと言って葛城さんは帰っていった。
恐らく、Tataniに関しては警察が動くだろう。
どうなるかは解らないが我々は見ている事しか出来ない.
◆ ◆ ◆
放課後の高嶋高校。図書室にはいつものメンツが揃っている。
「・・・と、いう訳で大村先輩は無視しろってさ。」
珍しく神妙な面持ちで理恵が言う。速人も青い顔をして頷く。
「グリグリって昭和の時代じゃあるまいし・・・。」
呆れる亮二に速人が
「この世の物と思えないほど痛い。」
と答える。
何を思ったのだろう。ふと、亮二が
「ところでさ、お前のゴリラに一回乗らせてくれない?
前から思ってたんだけどさ、普通に走ってるよな。」
と理恵に聞きだした。
「ん?いいけど何で?」
「理恵と速人のモンキーは妙に安定して走ってるんだよな。
普通はもっと不安定だと思うんだ。」
「どうしよっかな?」
悩む理恵。
(亮二のエイプは足が着かないんだよね。クラッチも有るし。)
「じゃあ、亮二は私のゴリラに乗って、速人は亮二のエイプに乗ってよ。
私は速人のモンキーに乗る。それで帰らない?」
速人は理恵に微笑んで言った。
「僕は足が着くからエイプでOK!」
「・・・・・。」
(くそ~完全に読まれてる。)
◆ ◆ ◆
(やっぱり小せぇな。)
見た目が小さなゴリラは乗っても小さい。
身長167センチの亮二がシートに跨ると踵が浮かない。
踵はべったり地面に着き、膝に余裕があるくらいだ。
装備は必要最小限。セルも無い。
「小さい割に窮屈じゃないんだよな。」
何となく口に出たひと言。
ホンダはモンキーをキャンプやレジャーの場へ持って行くバイクと
して開発したが、ゴリラはレジャーの場へ乗っていくというコンセプトで
出来たバイク。9ℓも入るガソリンタンクと乗り心地の良い
厚めのシート。そして自然なポジションとなるハンドル。
亮二はホンダの思惑通りの感想を述べた。
理恵にとってシートポジションだけならモンキーの方が良い。
だが、小猿の様に活発な理恵でも女の子なのだ。
分厚いシートでふんわりと移動したい時は毎月ある。
『そのうち大きくなるかもしれないから。』と
大島に言われて買ったゴリラ。今では感謝している。
キックペダルを踏み、エンジンを始動させる。
チョークを引こうか迷ったが、暑い時期だ。
かからなければ引いてもう一度キックするかと思ったが
スポンと気の抜けた音を立ててエンジンはかかった。
スポンッ・ポンポンポンポン
カブのエンジンだから当然だが、カブと同じエンジン音がする。
「じゃぁ俺、先行するわ。」
ギヤを1速に入れ走り出す。クラッチが無いのが妙だ。
高校から湖岸道路へ走り出す。
街中では3速までしか使わない。4速は巡航ギヤか。
3速で走っていると信号で止まる。
ニュートラルに戻すのが面倒だがよく考えれば
遠心クラッチだ。ニュートラルにしなくても1速に
入れておけばよい。
「ちょっと先に行くぞ。」と3人に言い、スロットルを
ワイドオープンにする。3速で60㎞/hまで引っ張り
4速へ入れる。急に加速は弱りジワジワと車速が伸びる。
(70㎞/hは出ないか・・・)
スロットルを緩め遅めのスピードで流し3人が追い付くのを待つ。
メーターは50km/hを指している。景色を楽しみながら走る。
(エイプ100も悪くは無いけどな・・・ゴリラもなかなか・・・。)
「どうだった~?」理恵が聞いてくるが
「速人ん家に着いたら言う!」としか言わない。
(何やろうな。この妙な安心感は)
湖岸道路を降りて速人の家に着いた。
「私のゴリラはどう?速い?」理恵が無邪気に聞いてくる。
「普通やな。これ以上ないくらいに普通。」
「亮二、普通に乗ってたもんね。」
夏休み中、一緒に走り回っていた綾が言うのだから間違いない。
「法定速度内で走るのが気持ち良いかな~て感じやね。
競走するとか争うように走るバイクじゃないよ、これ。」
「じゃあ、おっちゃんが言ってたのは正解?」
「うん。馬鹿は放っておけば良い。競走なんか無意味。」
交換していたバイクを乗り直し、解散となった。




