ああ、栄光の今都市民
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは関係ありません。
自慢のバイクで競走を仕掛けたら負け。しかも相手は1年生女子。
88㏄のカブ型エンジンを積んだ奴らで作った88クラブで
最後まで残っていた清水も離れていった。
「面白く無え。何で安曇河の奴に・・・」
幼い頃から大村は『今都は高嶋市で最も誇り高く、気高い街』と
教育されてきた。今都は高嶋でナンバーワン・・・
本当は『高嶋市』では無く『今都市』となるべきだったと思っている。
「高嶋市は今都にある自衛隊の補助金目当てに合併した。
言わば他の町は物乞いと一緒なのだ。」と両親から言われている。
「88㏄でダメならもっと大きな排気量で・・・」
もう88㏄にこだわる必要は無い。必要なのは勝つ事だ。
免許を取ったばかりの1年生が俺様に勝つなど許せない。
もう手段は選ばない。とにかく勝てばよい。
大きなエンジン=パワー・・・成功への道しるべだ。
「150㏄で5速ミッション・・・これだ!これで勝てる。」
オークションの評価は低い店だったが迷わず購入した。
「パパ~ママ~お金が欲し~い。ちょうだ~い♡」
甘えた声を出して大村は両親にすり寄った。
「パパはお金持ちなんだぞ~ボクちゃん、何でも買ってあげるよ~」
◆ ◆ ◆
「えらく御疲れで・・・忙しいみたいですね・・・。」
店に訪れた葛城を見た大島は驚いていた。
眼元にはクマ、髪はボサボサ、顔色も良くない。
「忙しいのも有りますけど暑さも堪えますね・・・。」
上からは日射、下から照り返しとエンジンの熱。
夏でも長袖・ヘルメットでは当然だろう。
イケメン白バイ隊員でも人間なのだ。弱って当然だろう。
「弱ってもカッコいいわね♡」
「わ~萌える~♡」
「愁いを帯びた姿がたまらないわ。」
御菓子や飲み物をもって奥様方が葛城さんを観に来る。
(葛城さんが女性なのは黙っておくことにしよう。)
「オイル交換は・・・まだ大丈夫ですね。」
「走りに行く元気が無くて・・・あ・美味しい。」
近所の奥様御手製の梅ジュースだ。酸味が爽やかで
体力が回復する様だ。体に染みる。
(イケメンは得だねぇ・・・)
「あんまり真面目すぎると潰れまっせ。たまにサボりに
寄ってもろても誰も文句言いませんで。何やったら
『警察官立ち寄り所』の看板付けますで。」
看板があれば立ち寄っても問題ないだろうと思う。
どうやらカブのメンテナンスの事でなく、ただ寄っただけの様だ。
「最近よくサイレンが鳴ってますけど、事故が多いんですか?」
「バイクの事故が増えていて・・・。」
青菜に塩を擦り込んだようにうなだれる葛城さん。
こりゃ相当多いらしいな。
「仕事の事は言えんことが多いでしょう。詳しくは聞きませんけどね。」
「はい・・・・・。」
「暑さが和らいで、年寄りがバイクに乗り始めて事故。」
「・・・・・。」
「そのバイクが不正な登録がしてあってややこしい事に。」
「・・・・・・。」
「『おじさん。Tataniの事、何か知ってます?』でしょ?」
「はい・・・・。」
車輪の会で在った事、休業に追い込まれた店の事。
知っている事は全て話した。
「古いCBR250にカブのエンジンを積んで登録したのは
Tataniへの当て付け。警察が不審に思って動けばな~って。」
「・・・・・。」
「それは警察に任せるとして、ウチも困った事が有りましてな・・・」
「?」
「ヤンチャする学生が居るらしいんですわ。」




