大島のざっくりしたメカ講座
※この物語はフィクションです。実在する人物・団体とは関係ありません。
「ふ~ん。自分で組んだ88㏄か・・・。」
理恵に喧嘩を売ったDAXの事を聞いた大島は
2人にサイダーを出しながら呟くように言った。
「何で88㏄なの?葛城さんのカブと同じエンジン?」
「いや。葛城さんのエンジンはベースが85㏄のカブ90.」
「ストロークが違うんですよね」
「速人、その通りや。カブ90はストロークが長い。」
速人は筋が良い。メカの事や整備のコツをすぐ覚える。
破ったカレンダーの裏を使ってエンジンの絵を描く。
「これがエンジンの簡単な絵やな。
このピストンを大きな物に替えるのがボアアップ。」
横にエンジンの断面図を書いて説明を続ける。
「クランクシャフトを交換してピストンの動く量を
増やすのがストロークアップ。」
「私のゴリラはどっち?」
「理恵と速人のエンジンはボアアップ。ピストンとシリンダーを
交換して75㏄になってる。ホンダの何かのピストンを流用したのが
88㏄になったきっかけらしいけど、その辺りはオッサンも知らん。」
「ふ~ん。」
「で、ピストンどんどん大きくするとシリンダーの内径が大きくなる。
シリンダーの下側はクランクケースに入るからシリンダーの外径は
変える事が出来ない。となると、シリンダーが薄くなる。
それで耐久力が無くなるんや。その限界がピストン52㎜で88㏄。」
「「?」」
2人が不思議そうにしている。
「52mmだと84㏄じゃないの?」
「?」
「2.6×2.6×3×41.4で約84㏄ですよね?」
「? 3って何や?」
「円周率。」
「ああ。今は学校で3って教わるんだっけ?オッサンらは3.14で
習ってたから。2.6×2.6×3.14×41.4で約88㏄やな。」
世代の違いを感じるなぁ。
「じゃあクランクケースに入る所は切ってピストンとシリンダーの
穴だけ大きくしたらアカンの?」
速人は『何言ってるんだ?』みたいな顔をして理恵を見ているが
知らない故に鋭い事を言うと大島は感じた。
「そういうキットも有るけどな、ところがシリンダーを
取り付けるスタッドボルトがあるからそれにも限度がある。」
と雑誌の有名なメーカー広告を二人に見せる。
シリンダーを加工しなくても良いスカートが短い形状の
特別なピストン・シリンダーのキットだ。
「標準の倍以上の排気量やからなぁ。ノーマルの
クランクシャフトやと負荷が掛かりすぎる。
理恵と速人のエンジンはクランクシャフトはカブ70の物で
強化してるから100㏄で組んでも安心かもしれんけどな。」
「それで加速中にボ~ン(と爆発)ですか?」
「多分やけど腰下はノーマルのまま88㏄にしたんと違うか?
弱い所にストレスが掛かってボ~ンや。」
「ふーん。よく解らへんけど私のゴリラは
頑丈な通学用のエンジン?」
「そうや。理恵と速人のエンジンは通学スペシャル。
部品の強度・オイル潤滑・燃費を吟味した純正部品の
良い所取りやな。オイル交換をさぼらず、競走なんか
せんかったら3年どころか大学を卒業するまで乗れるぞ。」
頑丈さ関しては自信がある。90㏄から更に排気量を増やしても
大丈夫な部品で組んだ75㏄。安全マージンはタップリだ。
理恵はよく解らない様だったが、速人は何となく理解したようだ。
「ま、レースなんかしないようにな。」
「はい。」
「もうグリグリは嫌や~。」
と言って2人は帰っていった。




