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大島サイクル営業中 2017年度  作者: 京丁椎
9月
66/200

理恵への挑戦

高嶋市今都町でバイクの修理をする店は平津オートのみ。

戦前・戦後の古いバイクを修理するお店です。


Tataniでは整備は外注で高級車のみの取り扱いです。

最近は外注先に断られたので修理に出せないらしい。


高嶋市の今都町以外のお店は、今都の人と取引を嫌がります。

今都でバイクに乗る場合は、隣の大津市・長浜市まで行くか

自分で修理するしかない様です。


フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。

実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です

店に任せず自分で整備・改造する者達を『プライベーター』と呼ぶ。


本来はメーカーが活動の一環、つまり仕事でレースをする『ワークス』

に対する個人参加のレーサーを指す言葉だ。


レースに個人参加するのは腕に覚えがあるチューナーだ。

自分の愛車を自分で改造してレースに出る。

その流れか、いつの間にか自分で作業する者を

プライベーターと呼ぶようになったらしい。


ショップでの工賃を嫌って自分で作業する者も居る。

金の無い若者たちがあれこれと悩み、試行錯誤して

愛車を弄る。


飽きて乗るだけになったりバイクを降りてしまう者も居るが、

飽きずに工具を揃え、ひたすら自分の乗る愛車を弄り続ける者も多い。


仕事で損得を考えてするのではなく、自分の愛車を妥協せず

極限まで突き詰める・・・ある意味プロ以上の玄人、

『スーパープライベーター』になる者も極少数だが出てくる。


◆      ◆      ◆

「お前のゴリラって、店で造ったんだよな。速いの?」


速人と弁当を食べていたらいきなり声をかけられた。

(誰やねん?いきなり何や?飯食ってるのに)


話したことの無い男子に戸惑いながらも

「教習車より遅いんじゃない?小さいし。」

と受け流す理恵。この手の奴に『速いよ』なんて言えば

どんな面倒に巻き込まれるかわからない。


そもそも私のゴリラは寝坊しても大丈夫な様にオッチャンに造ってもらったんや。

「原付2種の法定速度は時速60㎞。だから出せるのは時速60㎞まで。」

「平地で60㎞/h以上出せるパワーは坂道を登る為。」

て、言われているんやからな。


「俺のDAXと競走せんか?」

しつこい。何で競走なんかせなアカンのや。

スピード違反で捕まったらどうすんねん。


「・・・・・断る。」


「ご飯食べてるから・・・ゴメンね。」

(いいぞ速人。こいつを追い払ってくれ。)


ぶつくさ言いながらどこかに行く男子。

「なぁ速人、あいつ知ってる?」


速人は『知らない』とでも言うように首を振る。


◆      ◆      ◆

2年生の教室で喚き声が聞こえる。

「駄目だわ。『湖岸のお猿』は乗って来ね~わ。」

椅子に踏ん反り返る大村。


「だから、1年生にちょっかい出すのは辞めろって言うてるやろ?」

と注意する眼鏡の男子、清水。

「なぁ、1年生をいびって何になるんや。アホか?」


「俺ら88倶楽部が高嶋高校最高のバイク乗りやと・・」


「88倶楽部て・・・お前と俺だけやないか。」

同期で造ったツーリングクラブだったはずが、

後輩を馬鹿にする大村とメンバーの考えの違いから分滅。

友人の少ない大村に清水が仕方なく付き合っている・・・。


(こいつは眼を離すと何するか解らんからな・・・)


◆      ◆      ◆

「やっぱりついて来た。2人で正解やね。」

「しつこいなぁ。」

こうなると思っていたので亮二と綾ちゃんは誘わなかった。

綾ちゃんのDioはまだ慣らし中。亮二は喧嘩っ(ぱや)い。


喚く大村を横目に速人に謝る志水。

「ごめんね。おれ、2年の清水。こいつの見張り役。」


「先輩。私のゴリラは通学用のバイクです。競走するバイクじゃありません。」

理恵がふくれ面で答える。


「あいつは自分で組んだ88㏄のエンジンが速いと解ればOKなんや。

軽く走って『先輩、速いです~♡』とでも言ってやれば退くから。」


仕方ない

「今都から安曇河までですよ。」形だけの競争をする事にした。


「じゃあ、この信号から安曇河の子供の国の信号まで。」


「おっ(ぱじめ)めようぜっ!」

大村が吠える。


信号が赤から青へ・・・スタート。

速人と清水が後を追う。

1速は両車ほぼ互角。2速で大村がリードする。

少し早く理恵が3速へシフト。加速してリードする。

大村も3速に入れるが少しもたついている。


(ここで3速だと大村が伸びて勝つな・・・)

とスーパーカブで追いながら考える清水だが速人は

(3速で引っ張って4速でもう一伸び・・・)

と睨んでいた。


その時、大村のDAXがマフラーから白煙を吐いた。

エンジンが壊れたのだ。


ガラガラと音を立てて停まるDAX。エンジンからオイルが流れ出している。


「くそ~調子さえ良ければお前なんか楽勝で・・」

吠える大村を冷ややかな目で見る3人。


「もう良い(ええ)やろ?かまわんといてな。」

「すいません。帰って良いですか?」

尋ねる2人を

「うん。後は任せて。」と見送る清水。


2人が見えなくなった。大村は少し落ち着いたようだ。

こいつと今まで付き合っていたがもう無理だ。

カブに貼ってある88倶楽部のステッカー。

カリカリと爪で剥がし丸めてポケットに入れる。


「絶対おかしい。調子さえ良ければ俺の勝ちなのに・・・。」

まだ不満を口にする大村。


(情けない奴や・・・)


「悪いけどもうお前につきあっていられん。暫く頭を冷やせ。」


それだけを言い、清水は大村を置いて帰った。


大村のDAXは再販の12Vモデル。3速の遠心クラッチです。

1速のスタートで車速が伸びる様にスプロケット交換。

エンジンはオークションで買ったボアアップキットを使って

88㏄にしてありますが、腰下は手付かずでした。

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