盆休み
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
閉まったシャッターに1枚の張り紙。
『8月15日~20日まで盆休みとさせていただきます。』
別に何処へ行く予定もないので店を開けても良いのだが、
お盆休みの時期は湖周道路を走るサイクリストが多い。
外国製のロードレーサーなどの競技用の自転車たちが
舗装状況の良くない湖岸道路を走りパンクする。
自分でパンク修理出来ない者が大石サイクルに来ることも多かった。
ところが、タイヤの構造が特殊だったりサイズが違ったりで
修理が出来なかったり取り寄せが必要だったりする。
先代は「舶来物の自転車は、よう直せませんわ。」と
断っていたが、どうしても退かない客が多かったり
捨て台詞を吐いて行く客が多かったりで困ったらしい。
それは大島が店を継いでからも一緒で、
何回か盆にも店を開けたが、都会から琵琶湖1周に来る
サイクリストの扱いに疲れてからは止めてしまった。
「自転車は賢くないと乗れない」らしい。
残念ながら大島は賢くなかった。
結局、盆に仕事をしてもロクな事は無いので
収入が減るのは痛いが休むことにした。
1人暮らしの大島は家族サービスをする事は無い。
天涯孤独とまでは行かないが、家に親戚が訪れる事も無い。
大事な用事なら携帯にかかるはずなので、店の電話は鳴っても出ない。
休みとはいえ長年の習慣で癖になったのだろう。
いつもと同じ時間に目を覚まして朝食を食べる。
朝食後は家事を片付ければ昼前となる。
昼飯を食いがてら、気分転換にゴリラで出かける。
近所のラーメン屋で日替わりメニューを食べ、いざ朽樹へ。
片道約30分かけてトコトコと走る。
途中で何台ものバイクに追い抜かれるが気にしない。
時間だけはたっぷりある。急ぐ必要なんかないのだ。
本当は安全面からTシャツでバイクに乗るのは好ましくないが、
暑いのだから仕方ない。その分ゆっくり走れば良いのだ。
(高校の頃はヘルメットも無しで50㎞/h近くで走ったもんな)
若い頃の無茶を思い出して苦笑する。
大島は左の手首と足首の調子が悪い。医師曰く若い頃のダメージ
らしい。高校の頃、自転車で転倒したのが原因だろうと思う。
(あれから四半世紀以上か。まさかバイク通学OKなんて・・・)
大島が卒業した翌年から可能になった高嶋高校のバイク免許取得とバイク通学。
(朽樹の生徒はそれ以前からOKだったが)
「もう手に負えん。警察に任せましょう・・・。」
あの頃の自転車乗りが散々事故を起こして学校側が音を上げた。
3無い運動(免許を取らない・バイクに乗らせない・バイクを買わない)
の真逆の判断をした学校は全国から注目されたが
今や交通安全の成功例として名が知られるようになった。
反対に安曇河高校はバイク通学だけではなく自転車通学も禁止してしまった。
乗らなければ事故は起きない。これも一つの手段だろう。
そんな事を考えながら走っているうちに朽樹に着いた。
朽樹は自然を生かしたレジャーの街だ。
温泉に入り汗を流した後で、併設してある
搾りたての牛乳で作ったお菓子などを売る店で
ソフトクリームを食べ、体を冷ます。
スッキリした後は街の中を散策して
道の駅の売店を覗き、名物の栃餅を買って帰ることにした。
バイクが多く訪れる朽樹の道の駅だが、
大島と同じ様な小さなバイクは見かけない。
京都や大阪からの大型バイクが多い様だ。
大型バイク乗りの中にはセカンドバイクとしてモンキーや
ゴリラ・DAXに乗る者が多く、大島も声をかけられる。
「あれ?遠心?カブのエンジンですか?」
「カブ90のエンジンですよ。4速にしています。」
「排気量は何CCですか?」
「シリンダーボーリングして89㏄。純正O/Sピストンですね。」
お互いの名は知らないが、バイク好き同志で会話が弾む。
楽しい時間はあっという間に過ぎた。
「じゃあまた何処かで。」
道の駅から去るバイク乗り達。また何処かで会うのだろうか。
東の空から冷たい風が吹いてきた。雨の予感がする。
大島も道の駅を後にした。
お盆休みです。
休み明け(次回投稿)は21日です。




