安井さん来店
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
今日も大島サイクルは仕事が切れない。
修理引き渡しと預かりで気が付けば昼飯時だ。
中は仕事場で昼食をとる。
奥に引っ込んだ時に限って来客が在るためだ。
最近腹が出て来たのでサラダを食べる事にしている。
おにぎりを食べ終えたところでエンジン音が聞こえた。
「お~い。大島君よ~」
バイク仲間の安井のオッサンだ。
「安井さんもコーヒー飲む?昼飯は?」
コーヒーを淹れながら大島は尋ねた。
安井さんは大きなバイクも小さなバイクも嗜む情報通だ。
「おお、ブラックで頼むわ。ところで今都の平津オートの話聞いたけ?」
「平津オート?大きいのと旧いバイクの老舗やな。何か有ったん?」
コーヒーを出しながら大島は聞いた。
「急に整備の仕事が増えて親父さん過労で倒れたらしいぞ。
何か売るだけで整備を平津オートにまくる所が出来たらしいわ。」
「ふ~ん。そういえばうちもキットバイクの整備の問い合わせが来るわ~
よく解らんから全部断ってるけんど。整備しないバイク屋って何処や?」
「いや~店までは解らんけど何か勘違いした連中で煩い奴ららしいな~」
受け取ったコーヒーをすすり安井は言った。
「大島君も気をつけや。ろくな店ちゃうで」
半時間ほど話をして安井さんは帰った。
困って訪れた客に『余所で買ったバイクは整備お断り』なんて言いたくない。
でも今都の連中は例外だ。あいつらは息をする様に嘘をついて人を騙す。
午前中に作業が進んだので午後はゆったりと時間を過ごせた。
工具を磨き、工場を掃除する。労働環境の改善である。
「顧客満足度をアップ~♪」思わず歌ってしまう。
夕方になり、店じまいを考え始めた頃にけたたましい排気音が近づいてきた。
理恵のゴリラの音じゃない。
「おっちゃ~ん!助けて~!」
ん?理恵だ。後ろに気の弱そうな男の子が乗ったゴリラ・・・モンキー?
嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。
顔をしかめて接客するなんて商売人として失格だ。
「いらっしゃい。えらく派手なバイクを連れて来たな…」
愛想良くしたつもりだけど、顔が引きつっているのが自分でもわかる。
「同級生やけど、バイクが壊れたんやて。おっちゃん見て~な」
理恵の声に元気が無い。
「とりあえず動いてるな。具体的な症状を教えてくれるか?」
付いてきた男の子は泣きそうになって答えた。
「バイトして買ったんですけど買った店で見てもらうほど
調子が悪くなるんです…お金もどんどん無くなるし…出入り禁止になって」
「う~ん。おっちゃんが今まで弄った訳じゃないしな~
時間がかかるで~。どうなってるかわからんし預からせてくれるか?」
これ以上の事は今の時点では言えない。
「ざっと見積もりは出すから2~3日預からしてくれるかな?」
「あ…はい。お願いします」
今日は代車を貸して帰ってもらう事にした。
平津オートは旧車メインの老舗です。
ベテランの頑固職人2人で営業しています。
戦前のバイクの修理もしています。
安井さんは長距離はアメリカンの大型バイク
近距離はカブに乗っています。
仕事は運転関係。バイクも安全運転です。