タダで直せ・・・だと?
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
一般的にはバイクや自動車を修理したり改造したりするのは
整備工場で整備士資格を持つ者がすることが多い。
ところが、カブやモンキーなど小型レジャーバイクは
特殊工具が必要な部分は有るが、ある程度の整備は
ホームセンターで買える工具で出来てしまう。
理恵の様に『私は乗るだけ!」と言う者は多い。
下手に触って壊してしまうより、プロに任せた方が安心でもある。
速人は簡単な作業は自分でするが、エンジンの分解整備や
初めて作業する場所は大島に教えてもらいながらする。
今どきの若者は全てインターネットで調べると思っていたのだが
速人曰く、インターネットで調べてもよく解らない所が有るらしい。
「怪しい情報を100%信じるのは危ないですよ。」
今どきの若者にしては速人は慎重だ。Tataniでの苦い経験が有るからだろう。
最近はネットオークションでバイクを落札して
ネットショップで部品や工具を注文が出来て
下手すれば翌日に欲しい物が届く世になった。
修理や改造を趣味とし、自分で行うプライベーターには
便利な世の中になった。
弄る環境が出来た故に弄り壊す事も多いが。
◆ ◆ ◆
「たまには店に出すのも悪く無いかな~って。」
この手の自称プライベーターは多い。
普段は自分でやっているけど気まぐれに店に出すと言いつつ
実際は自分で対処できずに泣く泣く店に来たといったところか。
素直に『弄っていて訳が解らなくなった。』と言えばよいのに。
客なので話くらいは聞く。
「ボアアップキットを組んだら変になったんです~。」
「具体的にどんな症状が出ます?」
「エンジンが点かないんです~。」
『エンジンを点ける』って言ってる時点で間違っている。
エンジンはかける物。点けるのとは少し違う。
(家電にスイッチを入れる感覚なのかな。)
「ちょっと見させてもらいますね。」
見るとは言ったけど困った。素性が知れない部品が使われている。
何処のメーカーのボアアップキットを使ったのだろう?
ジェネレーターカバーを外してフライホイールを回してみた。
途中で引っ掛かり動かない。何か部品同士が当たっている様だ。
「分解してみないと詳しい事は解りませんが、恐らくピストンとヘッドに
何らかの問題があります。少なくとも腰上は組み直しですね」
「タダで直してよ」
常連でも何でもなく初めて来た客だ。
いきなり何を言い出すのかと大島は我が耳を疑った。
「お客さん、冗談は止めてください。ウチも商売ですんで」
「だって。修理ぐらいで金を払うのもったいないし」
何も悪びれることなく言う青年。
(人を舐めるな。クソガキめ)
ジェネレーターカバーを元に戻す。
修理を仕事とする者に対して『修理ぐらい』とは何て事を言うのだ。。
「そうですか。うちも商売なんで無料では無理ですわ。」
カブを店の外へ出しながら答える。
「あのさ、オッサン。俺は教師、つまり先生。高学歴なんだよ?
高卒じゃ出来ない職業なんだよ?偉い人間なんだよ?わかる?」
どんな理屈だよ・・・。
「高卒でも出来る仕事じゃないんだよ。選ばれた人間だよ?」
『先生』と呼ばれ続けて何か勘違いしている人だな。
「そんな選ばれた方なら修理にお金が掛かることが解りませんか?」
「俺は今都中学教師だ。俺の言う事を聞かないなんて~~~!」
小屋か物置か知らんけど名前は覚えたぞ。市内のバイク店に情報を流す!
自分のむちゃな要求が通らず地団駄を踏む教師。
こんな奴が教師で良いのか?教師ってこんなものなの?
「じゃあ、無料で直してくれるところが有ったら教えてください。
ウチもそこに外注で修理に出しますわ」
こんな奴は相手したらダメだ。御引き取り願おう。
「他にもバイク屋はいくらでも在るわっ!二度と来るかっ!」
捨て台詞を吐いて『教師』は帰っていった。
◆ ◆ ◆
「・・・てな事は有ってな。疲れた。」
「タダで直せはないですよね。」
トップケースを取り付けながら速人が答える。
暑くなってバックパックでは背中が暑いらしい。
「何かな、『お前の仕事には金を払う価値が無い』って
言われたみたいでガッカリしたわ。」
今年の夏は嫌な事が続く。何かの前触れだろうか。
学校の先生って浮世離れした人が多い様に思えます。
自分が言っていることが正義・完璧みたいな人が多いです。
『先生』なんて呼ばれて何か勘違いしているのでしょうね。




