両手ブレーキ
フィクションです。登場する人物・団体・地名・施設等は全て架空の存在です。
実在する人物・団体・地名・施設等とは一切無関係です。
「右足を使わないバイクらしい形のバイクねぇ。」
バイク雑誌を見ながら大島はため息をついた。
インドから輸入されているNavi110なんてバイクは有るが
大島サイクルには仕入れルートが無い。
両手ブレーキのモンキーは古いしプレミアム価格で
学生が通学で使う代物ではない。
と、なれば造るしかない。
ヘッドライトが明るくタマ数の多い12Vのモンキーを
改造して両手ブレーキにするのが良いだろう。
◆ ◆ ◆
「はぁ?そんなにするの?」
驚く大島に車輪の会の仲間が答える。
「大島ちゃんよ。最近のモンキーは値上がりが酷いぜ?」
どうやら生産終了のアナウンスが流れて以降、中古相場が
値上がりしている様だ。
新車で半額以下のコピーバイクが売れるのも仕方ない。
「モンキーが12万か。ゴリラの方が安いんやな。」
「何かゴリラの方が安いな。似た程度で10万。」
「エンジンは要らん。エンジンだけ引き取らんか?」
「大島ちゃん、エンジンは要らんのか?エンジン+キャブで
¥45000でどうよ?」
「車体が¥55000か。エンジンは俺が降ろすからもう一声。」
「も~仕方ない。もう¥1000引く。これが限界っ!」
「ありがと。じゃあ即金で。今すぐ降ろすわ。工具借りるで。」
「また女の子にバイク造るんか?」
「そうよ。今度はノークラで両手ブレーキやで。」
「また奇妙な注文を受けたな。」
「ホンマやで。」
◆ ◆ ◆
「社長~。こんにちは~。」
今度は高村ボデーを訪れた大島。
「なんや?また奇妙な物を造るんか?」
「ケーブルを固定する金具を作ってほしいんですよ。
図面はこんな感じで・・・」
図面を見た社長は
「ちょっと待て。」と工作機械の方へ行った。
工場の奥で溶接の火花が光りグラインダーの音する。
暫くすると再びブラケットを持って社長が現れた。
「これでエエんか?」
「おおきに。代金は?」
「この前作ってもろた奴の代わりや。現物支給。」
「ありがとうございます。」
速人の時と違い、今回はノーマルの中古車をベースに作る。
部品を集める手間を省くのと、夏休みに乗れるようにするためだ。
ベース車の値上がりを見込んで予算は15万円と言ったが
今回はしっかり儲けさせてもらうつもりだ。
エンジンは余り物で組んだ72㏄。キャブレターは中古品。
サスペンションやブレーキに手は付けない。
クラッチは無いので、使わなくなったクラッチレバーは
ワイヤーを繋いでリヤブレーキにした。
こうして両手ブレーキのゴリラが完成した。
(多分、お得意さんになる事は無いだろう)
何となくそんな気がした。
完成したと留守番電話のメッセージを入れておいたら
藤谷さん(母)が店に来た。登録は自分でするとの事で、
ついでに代金も払ってくれた。
「これが14万8千円なら悪くないわね~。」
軽トラックにゴリラを積みながら話す藤谷(母)
「ありがとうございます。100㎞走ったら点検とオイル交換を
サービスでしますんで来てくださいね。」
とは言ったものの、この人はもう来ないと思った。
その後、藤谷さんが大島サイクルを訪れる事は無かった。
自分で作業するプライベーターだから来ないのではない。
理恵は完全に利用されたのだ。




