今都のバイク店を見に行く
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません
『本日定休日 御用の方は携帯まで 店主』
大島サイクルの定休日は日曜と第2・4木曜日。
木曜日は休みとは言え役所回りがメインなので実質仕事だ。
用事を方付けた後は掃除・洗濯などの家事を済ませる。
店舗裏にある作業場で自分のバイクを触ることも多い。
だが、今日は出掛ける事にした。
中は愛車を走らせた。
中古部品の寄せ集めで作ったゴリラである。
一見ノーマルだが黄色ナンバーになっている。
このゴリラのエンジンは先代が作った物だ。
先代が得意だったカブ90改4速セル無しのエンジン。
四季を通じてグズらずスムーズに動く。
商店街を抜け国道161号線に乗る。
国道161号線を真旭で降りて湖周道路を北上する。
「面倒くさいルートだ。糞みたいな町だ。」
悪態をつきながら今都町へ入る。
JR開通以前は大津⇔若狭の交通の要だった今都。
往時の栄光にすがり気位は高いが寂れた街。
自衛隊の助成金で建てた箱モノが虚しく立ち並ぶ。
国道から離れ観光資源も特産品も無い街は
田舎暮らしに憧れる移住者の傍若無人により
高嶋市のトラブルメーカーと化している。
最近、修理問い合わせの多い社外製エンジンは
この町のバイク店で積んだらしい。
最近の社外製エンジンは一時期よりマシになったらしい。
ポイントを押さえればトラブルを回避できるはずなのに
それが出来ないショップとはどんな所か気になる。
どうやら理恵の言っていた店でもある様だ。
派手な店構えだ。ショールームにピカピカのバイクがならべてある。
殆どが最新の大型車。外車が多い。隅にモンキー(?)がある。
不思議な事にオイルの匂いがしない。
「うちとは大違いだな・・・。」
セレブリティ―バイカーズTatani
店名だけで嫌な予感がする。意を決して入ってみた。
長髪を後ろで縛った従業員が近づいてくる。
女の子なら可愛い髪型だが眼鏡をかけた細身の兄ちゃんだ。
冷やかしで見積もりでも取るか・・・
そんな事を思っていると店員が怒鳴り始めた。
「ちょっとアンタ!貧乏くさいミニバイクは裏に置いてくれる?!」
面喰っていると店員はマシンガンの様にしゃべり始めた。
「だいたいこんな格好悪いバイク乗ってるなんて信じられないよ
サスもエンジンも駄目じゃないか。何だ?このスイングアーム
ノーマルじゃない?ロンスイにしなきゃダメ!
ドラムブレーキなんてダメっすよ!
黒いシリンダー?鉄なんてダメダメ!アルミにしなきゃ!
ゴリラならコンプリート車があるよ!そっちにしましょ!」
「こんな商売があるのか・・・」中は心でつぶやいた。
だが、この店員の言葉には中身が無い。なぜダメか聞いてみよう。
「ロンスイすると何が良くなるのですか?」
店員は驚いた様な馬鹿にしたような顔で答える。
「格好いいじゃないですか!最高っすよ!」
続けて質問する。まだ馬脚は現さないだろう。
「アルミのシリンダーだと何が良くなるのですか?」
店員が焦り始めた!駄目だこいつは。
「アルミっすよ!ボアアップしたらアルミシリンダーは必須っす!」
せっかくだから俺のゴリラも見てもらうか。
「これ、どうですかね?」
知識を披露してくれ店員さん。君のステージだ。
「キャブが小さい!オイルクーラーも付いてないし、ダメっすね。
うちでカスタムしてやるよ!格好良くなるよ!
エンジンを150ccにしてフルチューンですね。それならいっそコンプリート車ですね。」
見ても解らないか。仕方ない。説明してやろう。
「このゴリラはノーマルじゃないよ。
フロントは某社のインナーフォークキット。
リヤも同じメーカーのショック。
エンジンはカブ90です。キャブがPC20
シリンダーは1㎜ボーリングして純正O/sピストン。
ミッションは4速クロス。カブ90用をベースに強化遠心クラッチです。
で、その他エイプ100用メーターとか流用メインで組んである。
地味な改造だったから解らないかな?」
店員さん・・・真っ赤になってますな。
「うるせ~!貧乏くさいまま乗れ!ウチはセレブの店なんだ。原2なんか来るな!」
と言ってどこか行ってしまった。
修理の来店が少ないようだ。
うちみたいな修理・メンテナンスがメインの店ではない。
オイルの匂いがしないバイク店なんて他に知らない。
セレブリティ―バイカーズTataniは高級バイク専門店という設定です。
検索しましたが同名の店舗など見つからなかったので付けました。
車検・整備は下請けの工場でします。
店内にあるモンキー(?)はセレブのお客様に用意した物です。
店舗裏に中古も用意してあります。
主な顧客は今都町内にある高級住宅地の住民です。
バイクを走らせるのではなく持つ事にステータスがあるとか何とか。
もちろん架空の店です。現実に在れば恐ろしいですね。