理恵の恋③
理恵は変なバイクに追いかけられた事が有ります。
今でも知らないバイクがミラーに映るとちょっと嫌です。
※この作品はフィクションであり、登場する人物・地名・施設・団体等は架空の存在です。
実在する人物・地名・施設・団体等とは一切関係ありません
「おっちゃん。変態や。変態が出た!」
血相を変えた理恵が店に飛び込んできた。
湖周道路で変態に追いかけられたらしい。
「警察に言って防災無線で流してもらうか?」
「どうしようかな?」
「まぁコーヒーでも飲んで落ち着きなさい。」
「ココアにして。」
「了解。」
コーヒーの香りは素晴らしいが、ココアの甘い香りも捨てがたい。
理恵にココアを出して話を聞くことにした。
「あのな、あのゴリラはそれなりに速く作ってある訳や。
普通のカブやったら追いつけんはずや。それにお前さんは
体重が軽い。加速勝負で負ける事は少ないはずやで。」
「でも、追いついて来たもん。」
理恵は口をとがらせながら答えた。
「湖周道路では化け物みたいなカブが出る。悪魔のカブと呼ばれててな。
そのカブはまるで狂おしく身を捩る様に走るという・・・」
もちろん冗談だ。
身を捩る様に走るカブがあるとすればフレームの溶接が剥がれているか
錆びて穴が空いているかのどちらかだろう。フレーム剛性の不足である。
「それは私の考えた小説や・・・。」
そんなやり取りをしていると別のお客さんが来た。
葛城さんだ。
「ほれ、見てみ。変態じゃなくてイケメンの乗ったカブが来たぞ。」
颯爽とカブから降りた葛城さんがいつもの様に店へと・・・?
あれ?入って来ない。
大島が不思議に思い外へ出ると、
葛城は理恵のゴリラを熱心に見ていた。
「可愛い~♡」と言いながら・・・・。
「葛城さん。あんた、何をしたはりますんや?」
「あ、すいません。可愛いバイクが在ったので、つい・・・。」
葛城さんが振り向くと、後ろにいた理恵が
「あ・・・白バイのお兄さん。」と言った。
大島は2人を店に入れ、ココアを入れ直した。
「可愛いバイクを見つけて、話が出来たらな~と思ったら
振り切られてしまいました。白バイ隊員なのに駄目ですね。」
「いや、何キロ出ているか解らんようなメーターを
何もせん方が悪いんですわ。スピード違反する前に
キチンとしたメーターに換えんとアカンな・・・ってオイ。」
下向いて椅子のクッションを穿り回す理恵を注意する。
「この前は間違えて停めてゴメンね。」
葛城さんが微笑む。うむ。イケメンの無駄撃ちだな。
椅子のクッションを穿り回しながら理恵は
「|△(三角)を付けなかった私も悪かったし・・・。」
と真っ赤になって答える。
だから、クッションを穿り回すのを止めなさい・・・
ああ~スポンジの下の木まで毟るのは止めて。
「葛城さんも趣味用にモンキーかゴリラでもどうですか?」
「私が乗ると可愛くないので・・・。この成りですから・・・。」
「大丈夫ですよ。試しに跨ってみたらどうですか?
おい、理恵。ちょっとバイク貸してあげてくれ。」
「うん。」
ゴリラに向かう2人を眺める。
お兄ちゃんと妹みたいで微笑ましい。
(ディズニーの『美女と野獣』ならぬ『美男子と小猿』か・・・)
理恵が聞いたら起こることが間違いない。
2人は仲良く話している。良い事だ。
ゴリラを見て満足したのか戻って来た。
「あ、あの葛城さんはお付き合いしている方って居るんですか?」
真っ赤になった理恵が聞く。
「居ないよ~。私、こんな見てくれだもの。」
笑いながら葛城さんが受け流す。
「じゃ・・じゃあ私とお付き合いして下さいっ!」
(そうか。理恵も恋をする年頃になったか・・・。)
年月の流れを感じた。
葛城さんは少し考えてからスマホを出した。
理恵の背後に立つと殴られます。




